竜人様に拾われました~転生養女は現世でも妻として愛されたい~

33.旦那様の頼み事

 その日、いつものように校舎を出たわたしを思わぬ人物が待っていた。


「アクセス……! ニコラスも。一体どうしたの? まだ勤務時間でしょう?」


 アクセスは以前、学校帰りのわたしを待ち伏せしていたことがあるけど、こんなことはあれ以来だ。
 だって、話がしたかったら家で待っていれば良いんだもの。家にはロイだっているんだし。


「話がある」


 アクセスは真剣な表情でそう言った。眉間に皺が寄っている。よく見れば、いつも底抜けに明るくて笑顔しか見たことのないニコラスまで、神妙な面持ちを浮かべていた。


「まさか……旦那様に何かあったの⁉」


 真っ先に思い浮かんだのは旦那様のことだった。旦那様が怪我をしたとか、病気があるとか、そういうこと。それなら、二人の尋常じゃない様子も理解できる。


「今はまだ、ない」

「今はまだ……?」


 言っている意味が理解できず、わたしはアクセスに詰め寄る。不安が胸を支配して、堪らない気持ちになった。


「ねぇ、今はまだってことは、今後旦那様に何か起こるってこと⁉ 旦那様は……」

「落ち着いて、アイリスちゃん。僕たちは今日、そのことを君と話したくてここに来たんだ」


 ニコラスがそう言ってわたしを宥めた。穏やかな優しい声音。張り詰めた心がほんの少しだけ和らぐ。代わりに涙がじわりと滲んだ。


「ひとまず移動しよう。僕に付いてきて」


 そう言ってニコラスがわたしの手を引く。コクリと頷きながら、涙を拭った。


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