竜人様に拾われました~転生養女は現世でも妻として愛されたい~

35.きずな君の記憶①【先を越された】

 いつからだろう。
 自分の名前が『特別』だと感じられるようになったのは――――。


「きずな君!」


 心臓が小さく音を立て、鳴り響く。振り向くと予想通り、太陽みたいに眩しい笑顔を浮かべた同級生がいた。
 彼女の名前は逢璃。高校に入ってから出会った、笑顔の可愛い女の子だ。


「おはよう、きずな君!」

「おはよう、逢璃」


 逢璃はそう言って満面の笑みを浮かべる。彼女につられて、俺も笑った。

 子どもの頃から俺には、妙なテリトリー意識があった。誰かが自分の領域に入るのがひどく嫌で、他人とあまり関わりたくない。
 けれど、逢璃だけは違った。根気強く話し掛けてきてくれたからという理由もあるけど、必要以上に踏み込まれても嫌だと思わない。寧ろ心地良さを感じていた。


「聞いてよ。今日お母さんがね、卵焼きを焦がしちゃってね――――」


 他人の話になんて興味がない。聞く必要性を感じていなかったし、時間の無駄だと思っていた。
 だけど、逢璃の話は不思議と面白くて。もっと、何でも聞かせてほしいとそう思う。笑顔を見ているだけで、自分まで楽しくなってくる。

 けれど、それが何故なのか、この頃の俺には分かっていなかった。


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