買われた花嫁は、極上の花の蕾

8、花嫁は再び売りに出される


✴︎


困ったね
君のことばかり考えてる
一日中
君はどんなだろうって

唯一後悔しているのは、なぜもっと遅く生まれなかったのか
君と過ごせるほどに
共に生きていけるほどに

ならば誰にも譲らない
渡さない
ドロドロに愛して甘やかして⋯⋯


「くそっ! 」


部屋のベッドの上で、弘毅は思わず声を上げていた。



✴︎


「もう! どうしてそんなに頑ななんだろう、弘毅は」


近寄るどころか、ここのところ弘毅は、


「ダメだ! 」


としか言わないのだ。まるでその言葉しか言えないみたいだ。

昨日など、華也子が口を開く前に、「あーダメだ」と目を泳がせながらいった。

(逃げてる私から)


「ダメだ」


と、もう一度、弘毅は言った。


「何が? 」


と睨んで返す。


「あー、とにかく、ダメなんだ」

「どうして? ねえ、どうして? 何がいけないの? しかも、妻なのよ? あなたの」

「違うね、」


と彼は言った。


「オレは結婚する気もない。つまり、お前とも、いろいろとそうならない! 」


睨んでも、弘毅の頑なさに負けるようだ。
さすがに頑固すぎるだろう、と思う。

近寄ってもダメ。話しかけてもダメ。触ってもダメ。


「今どき、妻なんていなくても不自由もない。慰謝料やるから離婚すればいいんだ」

「いやよ! 離婚してあげない」

「生意気だな、ホントに結婚もしてないぜ、オレ達」


と弘毅はせせら笑った。それから真顔になって、


「早く好きな男でも見つけな」


と血が出そうな低い声で言った。


「あなたなら? 」


と華也子も低い声で挑戦的に言った。


「ねぇ、あなたなら⋯⋯  」

「はっ、ばかな、いくつだと思ってんだ⁈ 」


と慌てながら、弘毅は部屋に入り、バタン! とドアを閉めた。

逃げたんだ。

弘毅は動揺してる、はっきり華也子を拒否出来ないほどだ。

華也子は一人ポツンと部屋に取り残されて、言いたいことはいっぱいあって、かわされて、寂しくて、思わず言葉に出したけど、自分はホントに好きな男は弘毅だ、と思っている事に気付いた。


✴︎


弘毅が部屋に戻り、もどかしくウロウロと野良犬のように落ち着きなく彷徨いていたら、電話が鳴った。

華也子の父親だった。

余計気が沈み(今頃何の用事だ? )と唸るように電話口に空気を吐き出しながら、ボタンを押した。父親は何故だか偉そうに自身ありげに、まるでいくつも年上の分別のある紳士のように話し出した。

弘毅は、おいおい、勘弁してくれ、と思う。ズレてるんだか変わってるんだか、弘毅にビルと華也子を売りつけて、困ったことが解消されたら、もう、次のことを思いつき、自信たっぷりに盛り返して、何故だか上からの態度だ。

しかし、父親の言葉で、弘毅は思わず動揺した。


《実は華也子には好きおうた男がおりましてな》


「へー、」といいながら、喉が詰まったような気がした。


✴︎



華也子が寝支度を済ませ、リビングを覗いたら、ソファーで弘毅が酒を飲んでいた。部屋は電気もついておらず暗い。


「弘毅? 」


電気をつけたら、手元のリモコンですぐに消された。
押し黙って、怒りが暗闇の中で彼をかたどっているようだった

(なんかへん、なんなの? )

と華也子は弘毅を見つめた。
弘毅は厳しい顔で、前を見たままだ。

《華也子は未だ清いまま、手をだしてないそうやないですか》

とさっき聞いた父親の声が弘毅の頭の中で響いていた。

《華也子がお父さん辛いって泣きやったんですわ、私は華也子が不憫で》

彼女が話したのか?

《本当は好き会うてる男がおったんです、華也子を思おてくれる彼の方が幸せになれる。訳を話したら、彼がそれならと言ってくださったんだ》


「思い通りじゃねぇか」


と呟かずにはいられなかった。最初からそのつもりだったじゃないか。
心が痛い、欲しがってはいけないんだ、手に入らないものを。


「オレにかまうな」


と弘毅は冷たく唸った。
流石に華也子も、何か違うと思ったらしい。
完全に外に向けて掘り出され、扉を中から閉められたみたいだ。
弘毅が本気で怒って拒否してる。

なんで⋯⋯ 。

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