僕の愛おしき憑かれた彼女
意外にも、谷口先輩は、何か事情があると悟ったようで、俺と砂月の顔を交互に見ながら、事の成り行きを見守るように、大きな口を一文字に閉じた。

「砂月、また、ちゃんとした場所探すから、ね?」

辛うじて涙を瞳にとどめている砂月を、愛子が髪を撫でて慰めた。砂月が、俺に見えない様にして袖で瞳を拭った。

先程までと空気が変わり、気まずくなったこの雰囲気を、誰がどう収めるのかと探り合うかのように静かになった。

「彰、砂月連れてってやればいいだろ」

気まずい沈黙を破ったのは駿介だった。無責任な一言にカチンときた俺は、思わず振り返った。

「お前な、適当なことゆうなよな!砂月に何かあったら」

「俺とお前がいるじゃん」

「何言って……」 

祓えればいいって訳じゃない。

(憑かれるの前提で連れてくとかありえねぇだろ)

「あぁなるの前提でってのが嫌なわけ?」

図星だ。咄嗟に口籠った俺を見ながら、
右手で頬杖をつくと、左手で俺を指差した。

「イチイチ過保護すぎ。そんなんで砂月泣かせるなよ」

「お前なっ」 

「俺とお前どちらも付いてれば、砂月は大丈夫だよ」

確かに、その辺の善良な霊は俺が、悪霊は駿介がいれば、どちらに憑かれても祓える。
それに父さんから御守り代わりに貰った神札もある。

でも……。決断のつかない俺を眺めながら、
駿介が、砂月に目線を移した。
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