虜にさせてみて?
今なら言えるかな、駿の事。

話してもいいのかな?

話したら心が楽になるとか、スッキリするとかではなく、響にだけは真実を知っていてほしい。

……ただ、そう思ったから。

「響、私の話を聞いてくれる?」

「あぁ、何だよ?」

ぶっきらぼうに答える響、でも嫌だって言わないから話してしまおう。

「駿との関係を知ってるかもしれないけど、付き合ってたの。私の方が大好きで仕方なかった。駿には他にも付き合ってる人が居るのを知ってた。けど、手放す事は出来なくて……」

泣かないように、青空を見上げて言う。

どこまでも澄んだ青が広がる空に風が流れた。

風は暑さを乗せて来て、プラスチックの容器に入ったコーラの中の氷が溶けて、カランと音がした。

音がしたと同時に響が口を開いた。

「薄々は感づいてたし、もう話さなくていいから……」

響は私のウェーブがかかった髪をクシャッと撫でた。

まるで、”辛かったんだろ”って言われたみたいに響の手は優しかった。

響はいつも言葉足らずで不器用だけど、ちゃんと優しさがある人。

人の心の傷みに敏感な人。

「俺、高校の時に初めてジェットコースターに乗ったんだ。でもこんなに何度も乗らなかったから、酔いはしなかったけど……お前は何度も乗って、酔わないの?」

「ん? 酔わないよ」

「馬鹿はスピード狂で高いところが好きなんだな、って、いてぇなっ! つねんなよっ!」

「あははっ」

響なりに気を使った言動。

一言余計なんだけれど、こんな会話も楽しいと思い始めてる。

不器用な響が垣間見せる優しさと素直さに、もっとドキドキさせてみて?

駿の気持ちが消える位、心に入り込んで、貴方で満たして欲しい。

――響とのこんな毎日も悪くないよね?
< 52 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop