虜にさせてみて?
私の知らない”響”を知っている人達。

響はどんな生活をしてきて、どんな恋をしてきて、どんな笑顔を振り撒いてきたのか、気になってしまう。

無愛想だから、響の営業スマイルではない笑顔はすぐに分かる。

笑顔の度合いが響の対人関係を表しているようで、人生観まで読み取れそうで、切なくて、ちょっと痛々しくも思える。

私と湊君よりも、二人と居る響はよく笑う。

こんなに笑う響は知らなかったし、ちょっと胸がズキンとするのは、きっとヤキモチだ。

心のどこかで、無愛想な響が私にだけ笑いかけてくれていると思っていた自分も居た。

勘違いも甚だしかった。

私は響をどうしたいんだろう?

独占したいのかな?

独占もしたくて、駿への気持ちも消えてなくて、私は最低だ。

「ひより? 何か機嫌悪くない?」

百合子さん達がチェックインの時間になり、部屋に移動した後に響が聞いてきた。

「そんな事ないよ」

「百合子達が来てから、あんまり話さないから」

百合子、百合子、百合子ってうるさいなぁ!

落ち着いたと思ってた心の中は掻き乱されてグジャグジャで、自分でもよく分からない。

駿から再び連絡が来たら、またなびいてしまうだろうか?

響に惹かれてるんだろうか?

それとも、辛さの穴埋め?

モヤモヤしてるのは駿のせい?

響のせい?

「響は誰にでも、女の子は呼び捨てするの?美奈は違うけど」

「百合子の事、言ってんの?」

「そう」

また百合子って呼び捨てだ。

親しいからって、仮にもマスターの奥さんなのに呼び捨てなんて。

「あ、もしかして、百合子さんが好きだった……とか?」

聞くんじゃなかった。

……聞きたくなかった。

「あぁ、だったら何?」

笑顔もない、響の氷のように冷たい表情での返事だった。
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