君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む

郁人Side

まさか彼女が俺の結婚相手だったとは。

彼女がリビングに入ってきたとき、胸の内にドス黒いものが広がっていく、そんな感覚がした。

これ見よがしに首に巻かれたオリーブグリーンのマフラーと、『えっ、郁人さんが結婚相手? 私はここに住み込みのお手伝いさんとしてやって来たのですが』という見え透いた嘘。

あの日、俺は彼女の行いのすべてを信じて疑わなかった。それなのになにもかも、今日の顔合わせのための下準備だったのだ。

彼女に惹かれていた気持ちがすっと冷えていき、強い失望を感じた。

姑息な真似をする人間は、一番嫌いなタイプだ。あんな手回しをするくらいなら、正々堂々と正面から向き合ってほしかった。

目論見を暴かれた彼女に、俺との半年間の結婚生活は気まずさしかないだろう。

これからは、互いに澱の中にでもいるような心地だ。

それでも今さら引き下がれなかった。







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