君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
生花店に到着すると、みちるへのプレゼントの花束と、仏花を二束購入した。

これから向かうのは、桐嶋家の一族とみちるの母が眠る寺院だ。

先日、海でみちると向き合い、俺はもう自分の本音を抑え込むのをやめた。

みちると半年間の契約結婚をし、愛してはいけないと思えば思うほど、彼女への思いを募らせていた。

結局俺は最初からずっと彼女が好きだったのだ。

それから、父は母を大切にしていたとみちるに言われて、思い出したことがたくさんある。

十歳の頃、母が泣いているところに居合わせるまで、俺は父が母を愛していると信じて疑わなかった。それくらい息子の俺の目には、父と母が仲よく映っていたのだ。

だからこそ、父に母以外の想い人がいると言う話に衝撃を受けた。

俺まで裏切られた気持ちが湧き上がり、心底父を憎んだのだ。

五年前に母が不慮の事故で亡くなったとき、父は声を押し殺し滂沱の涙を流した。その姿にはたしかに母に対する深い愛情を感じた。

もしかすると母は思い違いをしていたのではないか、と疑問が生じたほどに。

それから数年が経ち、父がみちるの母と街中で身を寄せ合っているところを目撃したことで、やはり母が言っていたことは本当だったのだと、再び思い知らされたが。

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