夏色モノクローム

ep1 さよならシアーブルゾン

 好きなひとがいる。

 毎週火曜日と、金曜日の朝。運がよければ月曜日もたまに会える。
 通っている大学にほど近い住宅地の三叉路で、挨拶をしてから、ひとことふたこと話すだけ。あのひとはすぐにその場を立ち去ってしまうけれど、それで十分。
 だから、火曜日である今日は 里央(りお)にとって特別な日だった。


 佐代木(さよき) 里央(りお)は二一歳になったばかりの大学三年生だ。
「染めてるの?」とよく聞かれる明るい地毛は、肩につくくらいのボブに切りそろえて。今日は、てらっとした艶感のある白のTシャツにカーキのベイカーパンツ。それだけだと遊びが足りないから、白のシアーブルゾン重ねて爽やかさもプラスして……なんて。
 気合いを入れすぎず、ちょっと気の利いた装いができたらいいななんて思うのは、全部、今日が火曜日だからだ。

 この上中里は東京のど真ん中にあるにもかかわらず、独特の田舎っぽさが残る閑静な住宅地だった。
 毎朝七時半前には大学最寄りの上中里駅に着き、大学まで少しだけ遠回りになる横道に入る。さらに真っ直ぐ進んだところに、この三叉路はある。
 ひと通りのまばらな早めの時間帯に、そこをお気に入りの一眼レフのシャッターに収めるのが里央の日課だった。

 ここは正面に立ってシャッターを切るだけで、それなりに絵になる。地域猫も多くて、たまにカメラの前を横切ってくれちゃうのも可愛い。
 登校するには早すぎる時間帯だけれど、静けさのある朝のこの空気が、里央はとても好きだった。


 今は梅雨のまっただなかだけど、今日はよく晴れている。
 そんな爽やかな朝の時間、がららと、ある家の玄関戸が開く音が合図。里央はたちまち緊張して、背筋をピンと伸ばした。

(きたっ!)

 ぬぼっとした大人の男のひとが、大きなゴミ袋をひとつ引っさげ、ゆらりと姿を現す。
 その気怠そうな姿を見た瞬間、里央の心臓は大きく跳ねた。
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