夏色モノクローム
「いいんですよ。普段はこれで、十分、伝わるんですから」
「そうかい」

 あ。彼の纏う空気がかなり柔らかくなった。
 体のあちこち痛いけど、こんなのへっちゃらだ。志弦とはじめて、まともにお話できた気がしてとても嬉しい。
 だからこそ、せっかくの素敵な時間が終わってしまうことが、とても寂しかった。

「あの。本当にありがとうございました! 今度お礼させてください」

 勇気を振り絞って言ってみる。
 けれどもやっぱり、彼は里央に歩み寄ってくれる気はないようだった。

「いや、いいよ。放って置いたら寝覚めが悪そうだったからってだけだし」
「でもっ、お家にまで上げて頂いて。親切にして頂きましたし」
「気にするな。こういうのは、地域の大人の役目ってだけだ」

 余ったガーゼを救急箱に仕舞いながら、志弦はそう言って聞かせる。
 すっかり子供扱いされている。仕方がないことだとも思うが、ちょこっとだけ悔しい。
 だから里央は、しっかりと宣言した。

「いえっ、絶対。絶対お礼、持ってきます。待っていてください!」
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