見た目九話~冴えない遠藤さんに夢中です~
「遠藤さん、今日仕事終わりご飯行きませんかぁ?」
女子社員の猫なで声に、愛美は大きな溜め息を吐いた。
「あ、いや……やめとくよ」
今日も食堂で遠藤は足止めを食っていた。
「じゃあ明日は?」
彼女はまだ食い下がる。
「明日も無理だなあ」
遠藤が断り、ほっとしたのも束の間――
「遠藤さ~ぁん、来週コンパしましょうよぉ!」
別の女子社員も加わった。
「俺、そういうの好きじゃないから遠慮しとくよ。俺の部署の連中誘ってやってよ。喜ぶと思うから」
遠藤が全ての誘いを断って愛美の元へやってきた。
「愛美ちゃん、お疲れ」
「……お疲れ様です」
「どうした? 何かあった?」
「え? 何でですか?」
「何か今日、声に元気ないから」
遠藤は眉をひそめて愛美の様子を窺うようにじっと見つめながらゆっくりと椅子に腰を下ろした。
「そんなことないですよ」
明るく返してみたが、愛美の心の中は靄がかかっていた。
「プリン食べたら元気になる?」
真顔でそんなことを言う遠藤が可笑しくて、思わず吹き出した。遠藤のそんなところが、何処か父に似ているような気がした。父は見かけによらず、真面目で誠実な人だ。
遠藤は、見かけ通りの誠実な人だろう。
「愛美ちゃん、お疲れ」
会社を出ると、見慣れない遠藤が立っていて驚いた。
『雑誌の中から飛び出したような』とは正にこのことで、数日前にネットで購入したと聞いていた服だと一目でわかった。
それは、遠藤にとてもよく似合っていた。
そうしてまた一緒に駅に向かって歩いていたが、遠藤は何故かひと言も喋らず、何となく気まずい空気が漂っていた。
待っていたのは遠藤のほうなのに、どうしたというのだろう。
「あのさあ……」
駅に近付くと、漸く遠藤が口を開いた。
「はい」
「何か言ってよ」
「え?」
何にたいしての言葉なのかわからず、愛美は戸惑った。
「これ、この前買った服なんだけど……」
「ああ! はい、すごく似合ってますよ」
「本当?」
「はい」
愛美は笑顔で返す。
もしかして、遠藤はこのひと言を待っていたのだろうか。
「これだったら、俺と一緒に歩いてくれる?」
今一緒に歩いているのにと思いながら、愛美は小首を傾げた。
「愛美ちゃん、明日は何か予定ある?」
明日は土曜日で会社は休みだが、特に予定はなく、愛美は家でのんびり過ごすつもりでいた。
「いえ、特に何も」
「食事に誘ったら迷惑かな?」
遠藤が躊躇いがちに言った。
「え? あ、いえ……全然……」
愛美の胸は高鳴った。
「愛美ちゃんの最寄り駅は何処?」
「F駅です」
「じゃあ、五時にF駅で待ってる」
「はい、わかりました」
これは、デートという認識でいいのだろうか。
その夜、愛美はクローゼットを開けて心を踊らせていた。
そしてふと、遠藤が食堂で女子社員からの食事の誘いを断ったのは、自分を誘うつもりでいたからだろうか、と考える。コンパの誘いも断っていたが、優しい遠藤のことだから、何度も誘われると断りきれずに、首を縦に振るかもしれない。
――嫌だ……行かないでほしい。
だがそれを言えるのは彼女だけの特権で、愛美には何の権利もない。
女子社員の猫なで声に、愛美は大きな溜め息を吐いた。
「あ、いや……やめとくよ」
今日も食堂で遠藤は足止めを食っていた。
「じゃあ明日は?」
彼女はまだ食い下がる。
「明日も無理だなあ」
遠藤が断り、ほっとしたのも束の間――
「遠藤さ~ぁん、来週コンパしましょうよぉ!」
別の女子社員も加わった。
「俺、そういうの好きじゃないから遠慮しとくよ。俺の部署の連中誘ってやってよ。喜ぶと思うから」
遠藤が全ての誘いを断って愛美の元へやってきた。
「愛美ちゃん、お疲れ」
「……お疲れ様です」
「どうした? 何かあった?」
「え? 何でですか?」
「何か今日、声に元気ないから」
遠藤は眉をひそめて愛美の様子を窺うようにじっと見つめながらゆっくりと椅子に腰を下ろした。
「そんなことないですよ」
明るく返してみたが、愛美の心の中は靄がかかっていた。
「プリン食べたら元気になる?」
真顔でそんなことを言う遠藤が可笑しくて、思わず吹き出した。遠藤のそんなところが、何処か父に似ているような気がした。父は見かけによらず、真面目で誠実な人だ。
遠藤は、見かけ通りの誠実な人だろう。
「愛美ちゃん、お疲れ」
会社を出ると、見慣れない遠藤が立っていて驚いた。
『雑誌の中から飛び出したような』とは正にこのことで、数日前にネットで購入したと聞いていた服だと一目でわかった。
それは、遠藤にとてもよく似合っていた。
そうしてまた一緒に駅に向かって歩いていたが、遠藤は何故かひと言も喋らず、何となく気まずい空気が漂っていた。
待っていたのは遠藤のほうなのに、どうしたというのだろう。
「あのさあ……」
駅に近付くと、漸く遠藤が口を開いた。
「はい」
「何か言ってよ」
「え?」
何にたいしての言葉なのかわからず、愛美は戸惑った。
「これ、この前買った服なんだけど……」
「ああ! はい、すごく似合ってますよ」
「本当?」
「はい」
愛美は笑顔で返す。
もしかして、遠藤はこのひと言を待っていたのだろうか。
「これだったら、俺と一緒に歩いてくれる?」
今一緒に歩いているのにと思いながら、愛美は小首を傾げた。
「愛美ちゃん、明日は何か予定ある?」
明日は土曜日で会社は休みだが、特に予定はなく、愛美は家でのんびり過ごすつもりでいた。
「いえ、特に何も」
「食事に誘ったら迷惑かな?」
遠藤が躊躇いがちに言った。
「え? あ、いえ……全然……」
愛美の胸は高鳴った。
「愛美ちゃんの最寄り駅は何処?」
「F駅です」
「じゃあ、五時にF駅で待ってる」
「はい、わかりました」
これは、デートという認識でいいのだろうか。
その夜、愛美はクローゼットを開けて心を踊らせていた。
そしてふと、遠藤が食堂で女子社員からの食事の誘いを断ったのは、自分を誘うつもりでいたからだろうか、と考える。コンパの誘いも断っていたが、優しい遠藤のことだから、何度も誘われると断りきれずに、首を縦に振るかもしれない。
――嫌だ……行かないでほしい。
だがそれを言えるのは彼女だけの特権で、愛美には何の権利もない。