まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
「私はレイナが羨ましいよ」

 不意に立ち上がった彼女を見上げ、ぽろっと言葉がこぼれていた。

 一五八センチと比較的低身長な私に比べ、腰も高く一七〇センチ近いモデル並みのスタイルを持つ彼女はフィリピンと日本のハーフ。はっきり整った顔立ちをしていてどこにいても華やかでよく目立ち、私とはまるで正反対だった。

「なあに言ってんの、次期社長夫人が」

 するとファイルがバサッと頭の上に乗っかった。ムッとしたように見下ろしてくるレイナと目が合い、「外見ばっかり良くたって」とぼそぼそ言いながら消えていく。

「社長夫人、か」

 パソコンの画面をつけ作業途中だった台帳に向かってぽつりと呟くと、なんだかその言葉が心に重くのしかかった。


 毎朝八時の満員電車に揺られて高層ビルが立ち並ぶこのオフィス街へ出勤する。

 誰が見てもごく普通のOL、のはずだったけれどちょっと恵まれた家に生まれてしまったがために、この外見とは不釣り合いな人生を送っている。

 私は創業一三〇年の歴史を誇る老舗呉服屋『きもの鷹宮(たかみや)』の一人娘。

 多くの著名人が愛用する着物の高級ブランドとして銀座に本店を構えている。近所でもひと際目立つモダン風のお洒落な邸宅に住み、幼い頃からお手伝いさんが何人もいた。見かけにそぐわぬ〝お嬢様〟というやつだ。

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