まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
「なんなの、あの人」

 初対面で人の結婚にとやかく言ってきて最初から変な人だとは思っていたけれど、それ以上の変人だ。

 ちょっと顔が整っているからって言っていいことと悪いことがある。

 あの顔で「俺の妻にしてやる」と言われれば、女なら誰でも喜ぶと思っているのだろうか。舐められたものだ。よく見ればいつも仏頂面で笑いもしないし、そもそもかっこいいと思ったのだって何かの気の迷いで勘違いかもしれない。


「そうだよね? シボリもそう思うよね?」

 家に帰った私は玄関で待ち構えていたペットのパグの顔を掴み、膝の上にのせてひたすらあの人への文句を喋り続けた。

「あら珍しい。結ちゃんがそんなに怒ってるなんて」

 そこへ朝食を食べ終えた母がふらっと通りかかる。

「これからお出かけ?」

 能天気なセリフに苦笑いを浮かべて流したら、「いってらっしゃい」と笑顔を残し階段を上って消えていった。

 一人娘はよく過保護になるというけれど、うちは全くの放任主義で学生の頃から何をしていようと干渉されることはなかった。

 箱入り娘だった母が小さい頃から窮屈だったといいその反動から来ている。だから昨夜帰ってきていないことなんてまるで気にもとめられておらず、二十六歳にもなれば朝帰りなんて普通だろうとそれくらいにしか思われていないだろう。


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