まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
「手伝わせてください」

 私を押しのけさっさと中へ入っていくお義母さんを追いかけて一歩を踏み出していた。後先考えず勢いで出た言葉にごくりと唾を飲み込む。

「旅館の仕事はしないおつもりじゃなくて」

 しかし足を止め振り返りざまに言った顔は明らかにぎろりと私をにらんでいた。

「一哉さんから言われていますもの。興味本位で手伝われても邪魔なだけです」

 委縮して後ずさりたく気持ちをぐっとこらえて足を踏ん張る。

 お義母さん越しには必死に働くみんなの姿が見えた。急に小さい頃賑わいを見せていた『きもの鷹宮』の店内を思い出してしまい、着物を選ぶお客さんの顔や鷹宮の着物を着て接客している従業員の人たちとどこか重なるところがあった。

「力になりたいです」

 一哉さんのおかげで鷹宮の着物が目の前でもう一度輝いている。そう思ったら不思議とお義母さんの顔を真正面から真っすぐ見つめていた。

「一哉さんが何と言おうと私がここで働きたいんです。よろしくお願いします」

 私は初めて自分の意志でなにかをやりたいとそう思った。


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