まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
 翌朝、私はなぜか一哉さんの布団の上で目を覚ました。薬を飲んで眠ってしまった彼の傍で看病していたつもりがいつの間にか私まで寝てしまったみたいだ。

 飛び起きたときにはもう彼の姿はなく、私の上には掛布団がかけられていた。

「まったく。まだ治ってないのに」

 会社用の鞄も革靴もどこにもないのに気づき、寝起きのまま玄関前で呆気にとられる。最後に熱を計ったときは微熱まで下がっていたものの本調子じゃないはずなのに相変わらず困った人だ。

「わあ、びっくりした。どうされたんですか」

 母屋の入り口が開いたかと思うと彩乃さんがぎょっと目を丸くする。私はとくに驚く間もなく大きなため息が出た。

「本当に心配なんですね、一哉様のことが」

 朝食の準備をし始めた彩乃さんは、縁側で足を投げ出し風にあたっている私を見てクスッと笑う。

「昨日だって慣れないお料理までされて。私、月島家の方に料理を教えてほしいなんて言われたのは初めてで驚いちゃいました」

 改めて言われると恥ずかしくて振り返れなかった。

「彩乃さんに言われるがままやったら、私が作ったって気づかれないくらい美味しく作れちゃって」

 勝手に期待していたありがとうとか美味しかったとか、そんな言葉は聞けないままで私の初めての手料理は幻になった。ちょっぴり残念だったけど私の中では食べてくれただけで満足だった。
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