まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
「いいんじゃないか。若葉さんは中途半端なものを客前に出そうとする人じゃない。少なからず認められてるから任されたんだろう」
「そうだといいんですけど」

 謙遜しながらも一哉さんの言葉には嘘がないような気がして正直嬉しかった。

 最近彼はよくこうして会いに来てくれる。あの日倒れてから月島リゾートの仕事をセーブして旅館にも顔を出すようになって、仲居さんたちはみんな驚いていた。

 私と結婚する以前から女将を敬遠して近づこうともしなかったらしく、度々執務室で仕事をするようになったのは大きな変化だという。

「最近よくいらっしゃるんですね」

 花瓶の向きを整え、最後にもう一度部屋を点検して回りながらふと口にした。

「当たり前だ。君がここで働いているのに俺がずっと顔を出さないわけにはいかないだろう」

 すると、ため息まじりに言った面倒くさそうな顔をする彼に思わずクスッと笑えてくる。

 気のせいかもしれないけれど前よりずっと彼との距離が近くなったように感じていた。

 心を開いてくれている気がするし、よく顔を見て話してくれて家でも目が合うことが増えた。そう思ったら嬉しくて口元が緩んでしまう。

「楽しそうだな」
「え?」
「別に接客が好きってタイプでもなさそうなのに旅館の仕事って楽しいか?」

 その瞬間、カッと体が熱くなる。

 今考えていたのは一哉さんのことで、頬を触りながらどんな顔をしていたのかと目を泳がせる。ちらりと彼を見つめたら不思議そうに首を傾げてきて、慌てて視線を逸らした。

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