泡沫の恋
花火が終わると、九条と一緒に神社を後にした。

家まで送って行ってくれるというので甘えることにした。

「ねぇ、九条。私達が付き合ったことみんなに言ってもいい?」

一応確認をとっておこうとして尋ねる。

「いいよ。てかさ、もう付き合ってるんだし九条と春野はやめない?」

「じゃあ、なんて呼び合う?けんちゃんとあいちゃん?」

おどけて言うと、九条が苦笑した。

「その呼び方は恥ずかしすぎるだろ。普通でいいんじゃない?」

「普通って?」

「名前呼び」

「えー、分かんない。九条から呼んでみてよ」

愛依と賢人って呼ぼうって言ってるのは分かってるけど、最初に呼ぶのはなんか恥ずかしい。

「愛依」

今までだってみんなに愛依って呼ばれてるのに、九条に呼ばれるとなんだかくすぐったい気持ちになる。

「はい、愛依も俺のこと呼んでみてよ」

「け、賢人?」

「なんで疑問形なんだよ」

クックッと喉を鳴らして笑う賢人はやっぱりかっこよくて私は更に惚れ直してしまう。

周りにはまだ大勢の花火客がいる。その全員に『賢人は私の彼氏です!カッコいいでしょ?』って言って回りたくなる。

もちろんそんなことはしないけど。

賢人は車道側に立ち私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれる。

付き合ってからもきっとずっと賢人はこうやって私に合わせてくれるんだろうなって思う。

賢人はいい彼氏になってくれる予感がする。ううん、絶対今も十分いい彼氏だ。

初めての彼氏が賢人でよかった……。

あれこれしゃべりながら熱き続けると、あっという間に家の前に着いてしまった。

もっと一緒にいたかったな……。

「今日は疲れただろ?ゆっくり休んで」

「ううん、全然!すっごい楽しかった!!」

人生で一番、楽しくて幸せな日だった。

「俺もすげぇ楽しかった」

私の頭を優しく撫でてた賢人に私はある物を差し出した。

「これね、私からのプレゼント」

「ミサンガ……?」

透明の袋に入れたミサンガを手渡すと、賢人はぱあっと表情を明るくした。

「私、賢人がサッカーやってる姿大好きなの。だから、頑張ってね。応援してるから」

「愛依、ありがとう。絶対大切にする。つーか、今つける」

「それなら、右足がいいよ!勝負運アップだって」

「じゃあ、そうする」

賢人はしゃがみ込み右足首にミサンガを巻いた。

「明日からの練習頑張れそう。マジで嬉しい。ありがとな」

賢人が笑うと私まで嬉しくなる。

「でね、実は私の分も作ったの!」

「お揃いじゃん。どこに着ける?」

「私は勉強運アップの為に左手首に着けよっかな」

「じゃあ、俺が結ぶよ」

受け取ったミサンガを私の左手首に結んでくれた賢人にありがとうとお礼を言う。

こんなに喜んでもらえるなら慣れないミサンガづくりを頑張ったかいがあった。

左手首のミサンガにそっと触れる。初めてのお揃いに自然と喜びが溢れ出す。

賢人と別れてから家に入ると、自分の部屋に直行して巾着の中から取り出したスマホを手に取った。

呼び出し音を待つ時間すら惜しくてスマホを耳に当てたままそわそわと部屋の中を歩きまわる。

『どうだった!?』

3コール目で三花が電話に出た。

「告られた……!で、付き合うことになった!!」

『マジで!?やっぱりか!!おめでとう、愛依~!!』

電話口の三花に祝福されて私はこれ以上ない幸せを噛みしめた。
< 27 / 63 >

この作品をシェア

pagetop