泡沫の恋

九条賢人side

九条賢人side

「やべー!!賢人、マジでごめん。俺やっちまったわ」

珍しく真剣な顔で近寄って来たかと思うと、翔太は両手を顔の前で合わせて謝った。

「なにが?」

ソックスを下げて脛に当てているレガースを外し地面に放ると、地面にあぐらをかいて座り喉の渇きを潤す。

「涼森のこと、春野に言っちゃった」

「……――ぶっ!!」

驚きで飲んでいたスポーツドリンクを思わず吹き出してしまった。

「マジで?」

口元についた水滴を手の甲で拭う。

「さっきお前たちしゃべってたじゃん?あれ、春野見てたんだよ。その流れでさ……」

今日の放課後、数学の追試だと言っていたからそろそろ通るかなと気にはかけていたものの全く気が付かなかった。

それどころか涼森と一緒にいるところを見られていたなんて。

「愛依は?もう帰った?」

今から追いかければ間に合うかもしれない。

「分かんねぇ。まだ近くにいると思うけど」

「分かった」

俺は弾かれたように立ち上がって校門の方へ駆け出そうとした。

でも、それを制止するかのように試合の終わりを告げるホイッスルが鳴り響いた。

「次、2年と1年!!」

3年の先輩に指示をされ俺はぐっと手のひらを握り締めた。

「ほんとごめんな、賢人」

翔太に謝られて俺は首を横に振る。

元はといえば愛依に話さなかった俺が悪い。

「大丈夫だ。愛依にはあとでちゃんと話すから」

「そうしてやって。ショック受けてたみたいだからさ。春野にも謝っといて」

「分かった」

外していたレガースを拾い上げると、俺はグランドに向かって走り出した。
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