泡沫の恋
迎えに来てくれた三花は話聞くからうちおいでよと私を家まで引っ張ってきた。
「はいっ、これ飲んで」
コトンっと目の前に置かれたマグカップからふわふわと湯気が立つ。
「ありがとう」
ホットココアを口に含むと、甘みが口いっぱい広がって冷え切ってしまった体を芯から温めてくれた。
「ごめんね、急に呼び出したりして」
「そんなの気にしないでいいよ。で、九条となにかあったの?」
三花はゆっくり言葉を選ぶようにして尋ねた。
私はその言葉を待ってましたとばかりに今日あったことをつらつらと話し出す。
元カノのいちかちゃんとのことから始まりさっき賢人の家を飛び出してきて三花に電話をかけたところまで事細かに話した。
話し終えたタイミングで私は乾いた喉を潤すようにぬるくなったココアを飲み干した。
「分かる。誰かと好き同士になって付き合うことより続けることのほうがずっと難しいもん」
三花があまりにもしんみり言うから私はほんのちょっとだけ面食ったけど、「分かる」という言葉が私の心をポッと温めてくれる。
苦しい気持ちを吐き出して少しでも楽になりたかった。
これから先どうしようとかそういうものを求めていたんじゃないと、三花は分かってる。
だから三花はずっと相槌を打ちながら黙って私の話に耳を傾けてくれていたんだ。
「なんかそう考えると、恋とダイエットと一緒じゃない?断食でもなんでもすれば簡単に体重も落ちて痩せるけど、それをずーっと続けることの方が難しい」
「そういうもの?」
「うん。でさ、こんな時に言うのもあれなんだけど、実は今日彼氏と別れたんだよね」
「は、えっ!?別れたの?」
あまりに突然の三花のカミングアウトに思わず声を上げた。
「なんで?うまくいってたんでしょ?どうして突然……」
「価値観の違いってやつかな。束縛も激しかったし。ほらっ、前のキスマーク。あれも本当は嫌だったんだよね」
「そうだったんだ……」
私はあの時、三花の首筋に残った愛の証を羨ましいと感じていたけど三花は違ったようだ。
「彼氏は毎日連絡とりあって放課後も会って、週末はデートっていう付き合い方を望んでたの。あたしはその付き合い方が無理だった。将来の為に勉強もちゃんとしなくちゃいけないし、一人の時間も大切だったから」
「じゃあ、三花の方から?」
「一応ね。だけど、彼氏も苦しかったんだと思う。泣きながら別れたくないって言われたけど、あたしがもう無理って分かったんだろうね。今日、きっぱり別れたんだ」
平然を装っているように見える三花だけど、きっと辛くて仕方がないに決まってる。
「もう何回目だろ。あたし、付き合う人みんな不幸にしてる気がする」
ホットミルクを口に含んだ三花の喉が上下したと同時に、瞳からポロリと涙が零れ落ちた。
私は震える三花の体をギュッと抱きしめた。
「大丈夫。大丈夫だから」
三花がさっき私にしてくれたように、私も三花にアドバイスをしない。
ただ、こうやって私は三花のそばにいる。隣にいて一人じゃないんだよって抱きしめる。
「……うぅ……っ」
三花にしがみついて声を噛み殺してしばらく泣くと、三花が「お腹空いたんだけど」と漏らした。
「どっか食べに行きたいところだけど、うちらの顔面ヤバいよね」
「確かに。三花、鼻真っ赤だよ?」
「それを言うなら愛依だって目の下真っ黒じゃん」
「嘘!?」
慌てて三花の部屋の鏡を確認すると、目の下は黒くなりファンデーションがよれまくっていた。
「確かにこれは無理だね…。私達すごい顔してる」
「ちょっと待ってて。食べ物調達してくるから」
部屋を出て行ってからしばらくすると、三花はお盆を手に部屋に戻ってきた。
「こんなのしかなかったけどないよりいいよね」
テーブルの上のカップラーメンの蓋を取り、割り箸をパキンッと割る。
「いただきます」
湯気の立ったラーメンをグルグルと割り箸でほぐして口に運ぶ。
修学旅行中に4人で食べた味噌ラーメンがふと頭を過り、胸が苦しくなる。
賢人は今頃何をしてるのかな……?
まだサッカー動画観てる?
それとも、ちょっとぐらい私のこと考えてくれていたりする?
ようやく気持ちが落ち着いたというのにこんなひょんなことで思い出して苦しくなる。
麺をすすると、再び涙腺が緩んで私は慌てて手の甲で涙を拭う。
そのとき、目の前でラーメンを食べていた三花が盛大な音を立てて鼻をかんだ。
その目からは大粒の涙が溢れ、テーブルにポタポタと垂れる。
「ラーメン食べながら二人して泣くとかヤバくない?」
三花が笑い泣きする。
それにつられて私の目からも一筋の涙がこぼれた。
「でも、一人じゃなくてよかった。三花が一緒にいてくれてよかった」
「あたしも愛依がいてよかった」
「やっぱり持つべきものは女友達だね」
「間違いない」
目を見合わせてフフッと笑う私達。
きっと三花がいてくれなかったら、私は部屋の中で落ち込んで声を押し殺して泣いていた。
でも、今は一人じゃない。一緒に泣いてくれる三花の存在に私は心の底から感謝した。
「はいっ、これ飲んで」
コトンっと目の前に置かれたマグカップからふわふわと湯気が立つ。
「ありがとう」
ホットココアを口に含むと、甘みが口いっぱい広がって冷え切ってしまった体を芯から温めてくれた。
「ごめんね、急に呼び出したりして」
「そんなの気にしないでいいよ。で、九条となにかあったの?」
三花はゆっくり言葉を選ぶようにして尋ねた。
私はその言葉を待ってましたとばかりに今日あったことをつらつらと話し出す。
元カノのいちかちゃんとのことから始まりさっき賢人の家を飛び出してきて三花に電話をかけたところまで事細かに話した。
話し終えたタイミングで私は乾いた喉を潤すようにぬるくなったココアを飲み干した。
「分かる。誰かと好き同士になって付き合うことより続けることのほうがずっと難しいもん」
三花があまりにもしんみり言うから私はほんのちょっとだけ面食ったけど、「分かる」という言葉が私の心をポッと温めてくれる。
苦しい気持ちを吐き出して少しでも楽になりたかった。
これから先どうしようとかそういうものを求めていたんじゃないと、三花は分かってる。
だから三花はずっと相槌を打ちながら黙って私の話に耳を傾けてくれていたんだ。
「なんかそう考えると、恋とダイエットと一緒じゃない?断食でもなんでもすれば簡単に体重も落ちて痩せるけど、それをずーっと続けることの方が難しい」
「そういうもの?」
「うん。でさ、こんな時に言うのもあれなんだけど、実は今日彼氏と別れたんだよね」
「は、えっ!?別れたの?」
あまりに突然の三花のカミングアウトに思わず声を上げた。
「なんで?うまくいってたんでしょ?どうして突然……」
「価値観の違いってやつかな。束縛も激しかったし。ほらっ、前のキスマーク。あれも本当は嫌だったんだよね」
「そうだったんだ……」
私はあの時、三花の首筋に残った愛の証を羨ましいと感じていたけど三花は違ったようだ。
「彼氏は毎日連絡とりあって放課後も会って、週末はデートっていう付き合い方を望んでたの。あたしはその付き合い方が無理だった。将来の為に勉強もちゃんとしなくちゃいけないし、一人の時間も大切だったから」
「じゃあ、三花の方から?」
「一応ね。だけど、彼氏も苦しかったんだと思う。泣きながら別れたくないって言われたけど、あたしがもう無理って分かったんだろうね。今日、きっぱり別れたんだ」
平然を装っているように見える三花だけど、きっと辛くて仕方がないに決まってる。
「もう何回目だろ。あたし、付き合う人みんな不幸にしてる気がする」
ホットミルクを口に含んだ三花の喉が上下したと同時に、瞳からポロリと涙が零れ落ちた。
私は震える三花の体をギュッと抱きしめた。
「大丈夫。大丈夫だから」
三花がさっき私にしてくれたように、私も三花にアドバイスをしない。
ただ、こうやって私は三花のそばにいる。隣にいて一人じゃないんだよって抱きしめる。
「……うぅ……っ」
三花にしがみついて声を噛み殺してしばらく泣くと、三花が「お腹空いたんだけど」と漏らした。
「どっか食べに行きたいところだけど、うちらの顔面ヤバいよね」
「確かに。三花、鼻真っ赤だよ?」
「それを言うなら愛依だって目の下真っ黒じゃん」
「嘘!?」
慌てて三花の部屋の鏡を確認すると、目の下は黒くなりファンデーションがよれまくっていた。
「確かにこれは無理だね…。私達すごい顔してる」
「ちょっと待ってて。食べ物調達してくるから」
部屋を出て行ってからしばらくすると、三花はお盆を手に部屋に戻ってきた。
「こんなのしかなかったけどないよりいいよね」
テーブルの上のカップラーメンの蓋を取り、割り箸をパキンッと割る。
「いただきます」
湯気の立ったラーメンをグルグルと割り箸でほぐして口に運ぶ。
修学旅行中に4人で食べた味噌ラーメンがふと頭を過り、胸が苦しくなる。
賢人は今頃何をしてるのかな……?
まだサッカー動画観てる?
それとも、ちょっとぐらい私のこと考えてくれていたりする?
ようやく気持ちが落ち着いたというのにこんなひょんなことで思い出して苦しくなる。
麺をすすると、再び涙腺が緩んで私は慌てて手の甲で涙を拭う。
そのとき、目の前でラーメンを食べていた三花が盛大な音を立てて鼻をかんだ。
その目からは大粒の涙が溢れ、テーブルにポタポタと垂れる。
「ラーメン食べながら二人して泣くとかヤバくない?」
三花が笑い泣きする。
それにつられて私の目からも一筋の涙がこぼれた。
「でも、一人じゃなくてよかった。三花が一緒にいてくれてよかった」
「あたしも愛依がいてよかった」
「やっぱり持つべきものは女友達だね」
「間違いない」
目を見合わせてフフッと笑う私達。
きっと三花がいてくれなかったら、私は部屋の中で落ち込んで声を押し殺して泣いていた。
でも、今は一人じゃない。一緒に泣いてくれる三花の存在に私は心の底から感謝した。