泡沫の恋
縮まる距離
春野愛依side
この日は雲一つない真っ青な快晴だった。
学校に到着後、校長先生の無駄に長い話を聞いた後、電車で空港まで向かい飛行機にのって新千歳空港までやってきた。
それからクラスごとに別れてバスに乗り込み札幌を目指す。
初めての飛行機のせいで降りた後も時々耳の奥に違和感を感じたけどそれ以上に楽しみな気持ちの方が勝っていた。
バスに乗り込みしばらく走ると、車内はお菓子交換タイムになった。
隣同士の子や席の近い子達がお菓子を交換し始める。
「ねえねえ」
前の席の子の肩を後ろからポンポンッと叩くと、その子は不思議そうに振り返った。
「アメ食べる?」
「いいの?ありがとう」
「隣の子と前の子達にも回して」
持参してきたアメの袋を回すと、隣に座る三花に目を向ける。
三花は窓の外をぼんやり眺めている。その横顔が何故か少し寂しそうに見えた。
「みーか!どうしたの。元気ないぞ?」
三花の腕をツンツンっと突っついてわざと明るく振舞うと、三花はハッとしたようにこちらを見た。
「そう?元気だよ」
「それならいいんだけどさ」
私は膝の上のリュックの中からみんなに配ったものと同じアメの袋を取り出して封を開けると、三花の手のひらに収まりきらないぐらいどっさりと乗せた。
三花は慌てて両手でアメを受け止めて少し笑った。
「ちょっと、落ちるってば」
「これは三花の分。三花は親友だから特別にたくさんあげる」
「なにそれ。でも、ありがと」
なんだか少しだけ複雑そうな表情を浮かべる三花に私は尋ねた。
「ねぇ、三花はバスで食べるお菓子持ってこなかったの?」
「持ってきたけど……」
「そうなの?じゃあ、食べようよ」
三花は膝の上のリュックをギュッと胸に抱きしめた。
「あたし、愛依みたいにみんなに配れるような物持ってきてない」
「え?」
「あたしってこういう感じだし、愛依以外に友達って一人もいないから」
「なにそれ。どういう感じ?」
私が首を傾げて尋ねると、三花は言いずらそうに視線を膝辺りに下げた。
「男子とは普通にしゃべれるんだけど、自分から女子の輪に入るのとか苦手。中学で男好きって噂されて浮いた存在だったし、それが今もトラウマになってんのかも」
「……なるほど」
二年に進級したとき、一年で仲の良かった子達と離れ離れになってしまった私は友達になれそうな子を探した。
目についたのが三花だった。
背中まである茶色い髪を緩く巻いてきちんとしたメイクをした目立つ子なのに、ポツンと一人で寂しそうに席に座ってスマホを弄っていた。
直感的にあの子と友達になりたいと思って声をかけた。
三花は私が声をかけるとちょっとだけ驚いた顔をしてたけど、すぐに笑いかけてくれた。
そのとき、この子とは良い友達になれるって確信した。
確かに三花はちょっとだけ不器用で誤解されやすいタイプだ。
クラスの女子とも三花はあえて自分から距離を置いている。でも、私は知ってる。
三花が私以外にも友達を欲しがっていることを。
だったら、非日常の修学旅行は友達作りのチャンスでしかない。
「愛依ちゃん、これ」
前の席の子が振り返ってアメが入っていた袋を私に手渡した。
グルっと周りの席を一周した袋の中にはみんなが入れてくれた様々なお菓子がたくさん入っている。
「すごいね、愛依は。人気者じゃん。親友として誇らしいよ」
そう言って再び視線を窓の方に向けようとする三花に私は手を差し出した。
「三花のお菓子ちょうだい?」
「別にいいけど……」
取り出したポテトチップスの袋を開けて私に差し出す三花。
私は数枚掴んで口に運んだ後、尋ねた。
「これ、美味しいよね。みんなにも回してもいい?」
「いいけど……あたしのなんかみんな欲しくないって」
「そんなことないよ。何事も挑戦あるのみだよ」
私は通路側に身を乗り出して後ろの席の子にポテトチップスの袋を回した。
「これ、三花から。後ろの子達にも回して?」
「分かった。ありがとう」
後ろの子に渡して前に向き直ると、三花が不安そうな顔をしていた。
「小分けしてないし食べずらいって」
「ちっちゃなことは気にしないの。それに、今私達は北海道にいるんだよ。高2の今はもう二度と味わえないんだし、楽しもうよ」
「愛依って変なとこポジティブだよね。ていうか、ポジティブすぎ?」
「うるさいなぁ~!ていうか、私他にもお菓子持ってきてるんだ。一緒に食べよ?」
リュックの中を漁って対象のお菓子を取り出す。
「たくさん持ってきすぎでしょ」
三花に呆れられながらチョコマシュマロを頬張っていると、トントンっと肩を叩かれた。
「三花ちゃんに渡して」
後ろから回ってきたポテトチップスの袋。
それとは別のキャラクターものの袋の中にはみんなからのたくさんのお菓子が詰め込まれていた。
「三花、みんなからだよ」
私はそっと三花に手渡した。
恐る恐る袋の中を覗き込んだ三花はその中にたくさんのお菓子が入っていることに気付いて笑顔になった。
「部屋割一緒の子とか仲良くなれるチャンスだと思うよ。私も協力するからしゃべりかけてみなよ?」
「うん。そうしようかな」
三花がはにかみ私まで嬉しくなっていると、「今井~!」とバスの最後部付近で誰かが三花を呼んだ。
「ごちそうさん~!でも、俺返すもんなかった~!ごめんなぁ~?」
良く通るその声はきっと山上君だ。
それに続くように「三花ちゃん、ありがと」と誰かが声を上げた。
「三花も何か言ったら?」
私が促すと、珍しく少し照れたような表情を浮かべた後三花が声を上げた。
「みんなもお菓子ありがと!」
「おー、次はチョコ系よろしく~!」
「ハァ!?山上にはあげないから!!」
三花の叫びに車内に笑い声が響く。
「山上マジでアイツウザくない!?」
よかった。ようやくいつもの三花に戻った。
ホッと胸を撫で下ろしていると、バスが目的地に到着した。
「よしっ、まずは時計台へレッツゴーだね!」
心が弾む。私は食べかけのお菓子を慌ててリュックにしまい込んだ。
学校に到着後、校長先生の無駄に長い話を聞いた後、電車で空港まで向かい飛行機にのって新千歳空港までやってきた。
それからクラスごとに別れてバスに乗り込み札幌を目指す。
初めての飛行機のせいで降りた後も時々耳の奥に違和感を感じたけどそれ以上に楽しみな気持ちの方が勝っていた。
バスに乗り込みしばらく走ると、車内はお菓子交換タイムになった。
隣同士の子や席の近い子達がお菓子を交換し始める。
「ねえねえ」
前の席の子の肩を後ろからポンポンッと叩くと、その子は不思議そうに振り返った。
「アメ食べる?」
「いいの?ありがとう」
「隣の子と前の子達にも回して」
持参してきたアメの袋を回すと、隣に座る三花に目を向ける。
三花は窓の外をぼんやり眺めている。その横顔が何故か少し寂しそうに見えた。
「みーか!どうしたの。元気ないぞ?」
三花の腕をツンツンっと突っついてわざと明るく振舞うと、三花はハッとしたようにこちらを見た。
「そう?元気だよ」
「それならいいんだけどさ」
私は膝の上のリュックの中からみんなに配ったものと同じアメの袋を取り出して封を開けると、三花の手のひらに収まりきらないぐらいどっさりと乗せた。
三花は慌てて両手でアメを受け止めて少し笑った。
「ちょっと、落ちるってば」
「これは三花の分。三花は親友だから特別にたくさんあげる」
「なにそれ。でも、ありがと」
なんだか少しだけ複雑そうな表情を浮かべる三花に私は尋ねた。
「ねぇ、三花はバスで食べるお菓子持ってこなかったの?」
「持ってきたけど……」
「そうなの?じゃあ、食べようよ」
三花は膝の上のリュックをギュッと胸に抱きしめた。
「あたし、愛依みたいにみんなに配れるような物持ってきてない」
「え?」
「あたしってこういう感じだし、愛依以外に友達って一人もいないから」
「なにそれ。どういう感じ?」
私が首を傾げて尋ねると、三花は言いずらそうに視線を膝辺りに下げた。
「男子とは普通にしゃべれるんだけど、自分から女子の輪に入るのとか苦手。中学で男好きって噂されて浮いた存在だったし、それが今もトラウマになってんのかも」
「……なるほど」
二年に進級したとき、一年で仲の良かった子達と離れ離れになってしまった私は友達になれそうな子を探した。
目についたのが三花だった。
背中まである茶色い髪を緩く巻いてきちんとしたメイクをした目立つ子なのに、ポツンと一人で寂しそうに席に座ってスマホを弄っていた。
直感的にあの子と友達になりたいと思って声をかけた。
三花は私が声をかけるとちょっとだけ驚いた顔をしてたけど、すぐに笑いかけてくれた。
そのとき、この子とは良い友達になれるって確信した。
確かに三花はちょっとだけ不器用で誤解されやすいタイプだ。
クラスの女子とも三花はあえて自分から距離を置いている。でも、私は知ってる。
三花が私以外にも友達を欲しがっていることを。
だったら、非日常の修学旅行は友達作りのチャンスでしかない。
「愛依ちゃん、これ」
前の席の子が振り返ってアメが入っていた袋を私に手渡した。
グルっと周りの席を一周した袋の中にはみんなが入れてくれた様々なお菓子がたくさん入っている。
「すごいね、愛依は。人気者じゃん。親友として誇らしいよ」
そう言って再び視線を窓の方に向けようとする三花に私は手を差し出した。
「三花のお菓子ちょうだい?」
「別にいいけど……」
取り出したポテトチップスの袋を開けて私に差し出す三花。
私は数枚掴んで口に運んだ後、尋ねた。
「これ、美味しいよね。みんなにも回してもいい?」
「いいけど……あたしのなんかみんな欲しくないって」
「そんなことないよ。何事も挑戦あるのみだよ」
私は通路側に身を乗り出して後ろの席の子にポテトチップスの袋を回した。
「これ、三花から。後ろの子達にも回して?」
「分かった。ありがとう」
後ろの子に渡して前に向き直ると、三花が不安そうな顔をしていた。
「小分けしてないし食べずらいって」
「ちっちゃなことは気にしないの。それに、今私達は北海道にいるんだよ。高2の今はもう二度と味わえないんだし、楽しもうよ」
「愛依って変なとこポジティブだよね。ていうか、ポジティブすぎ?」
「うるさいなぁ~!ていうか、私他にもお菓子持ってきてるんだ。一緒に食べよ?」
リュックの中を漁って対象のお菓子を取り出す。
「たくさん持ってきすぎでしょ」
三花に呆れられながらチョコマシュマロを頬張っていると、トントンっと肩を叩かれた。
「三花ちゃんに渡して」
後ろから回ってきたポテトチップスの袋。
それとは別のキャラクターものの袋の中にはみんなからのたくさんのお菓子が詰め込まれていた。
「三花、みんなからだよ」
私はそっと三花に手渡した。
恐る恐る袋の中を覗き込んだ三花はその中にたくさんのお菓子が入っていることに気付いて笑顔になった。
「部屋割一緒の子とか仲良くなれるチャンスだと思うよ。私も協力するからしゃべりかけてみなよ?」
「うん。そうしようかな」
三花がはにかみ私まで嬉しくなっていると、「今井~!」とバスの最後部付近で誰かが三花を呼んだ。
「ごちそうさん~!でも、俺返すもんなかった~!ごめんなぁ~?」
良く通るその声はきっと山上君だ。
それに続くように「三花ちゃん、ありがと」と誰かが声を上げた。
「三花も何か言ったら?」
私が促すと、珍しく少し照れたような表情を浮かべた後三花が声を上げた。
「みんなもお菓子ありがと!」
「おー、次はチョコ系よろしく~!」
「ハァ!?山上にはあげないから!!」
三花の叫びに車内に笑い声が響く。
「山上マジでアイツウザくない!?」
よかった。ようやくいつもの三花に戻った。
ホッと胸を撫で下ろしていると、バスが目的地に到着した。
「よしっ、まずは時計台へレッツゴーだね!」
心が弾む。私は食べかけのお菓子を慌ててリュックにしまい込んだ。