レンカレ

レンカレ リョウ

「うわっ!めっちゃイケてる!
ね、チカ?」

ミカコのテンションとは正反対で落ち込んだチカが顔を上げ、やってきたレンタル彼氏なる男と目を合わせた。

端正な顔立ちだけど笑顔になると可愛くなるギャップのある目の前のイケメン男子にチカは悲しみの淵に居ながらしばらく見惚れてしまった。

(ヤバっ!カッコいい!こんなクオリティ高いの来るのー?)

チカはしばらくシュンスケの浮気を忘れるほどだった。

「リョウです。よろしくお願いします。」

彼は取り扱いルールなどを説明して
「前金でお願いします。」
と言った。

「あ、そうだった。」

急にお金の話が出てチカは現実に引き戻された。

しかしよく見ると目の前のリョウなる彼にチカは見覚えがある気がした。

「あれ?どこかで会ったこと無かったっけ?」

「やだ!チカったら古いナンパの手口みたいなセリフやめてよ!」

ミカコが隣で大笑いして茶化すが、
チカは絶対にその顔に見覚えがある。

「ねぇ、もしかして…」

そこまで言いかけた時、リョウが話を遮った。

「あ、オレも何か飲んでいい…かな?」

「あー、どうぞどうぞ〜。

チカ、ほらボーっとしてないでリョウくんのお酒注文して!」

「あ、うん。何でも好きなもの頼んで。」

「じゃあ…チカちゃんと同じの。」

「え?」

いきなり“チカちゃん“と呼ばれてチカは動揺した。

どこかで見た顔だけど、まぁどうでも良いかと
今夜は目の前のイケメンレンタル彼氏と遊ぶことにしようと思った。

「じゃあ私は締め切りが近いから帰りまーす。
リョウくん、チカよろしくね。」

「え?帰るの?」

「帰るよ〜、その為のレンタル彼氏でしょうが!」

(ミカコのヤツ謀ったな!)

ミカコが手を振って店を出て行って
2人きりになるとチカは急に緊張してきた。

「初めて?ウチの店。」

「え?あ、てゆーかレンタル彼氏ってのも初めて。

なんかさ、彼氏に浮気されてヤケクソ…って言うのは…君に悪いか。」

「いや、別にいいよ。
ヤケクソだろうと、何だろうと、チカちゃんが癒されてくれればそれで。」

チカはリョウの顔をジッと見てくる。

リョウは何となく気まずくて目を逸らした。

「ねぇ、君は何でこんなことしてるの?」

「え?こんなことって…軽蔑してるんだ?」

「そういうわけじゃないよ。
でもさ、お金もらって女の子とデートするって…何だか虚しくならない?

あ、ごめん!気に障った?
自分も利用してるのに偉そうなこと言うつもりないけどさ。」

リョウはしばらく黙っていた。

グラスの中の氷をクルクルと回してアルコールを薄めているチカの指をジッと見ていた。

「チカちゃんは幸せなんだと思う。

やっぱり最初は少し抵抗あったよ。

お金もらって女の子とデートって…何か爛れてるって言うか…荒んでくみたいな気がして…

でも世の中にはそういうことでもしないと暮らしていけない事情がある人が居るって知らないでしょ?

それにね、いい事もあるよ。

寂しくて一人ぼっちの女の子が勇気を出して呼んでくれて、いろんな話してさ…ありがとうとか言われちゃうとさ、逆に元気もらったりすることも。

そりゃ中には金払ってるんだからサービスしろってセクハラまがいのことされたりするけどさ。

でもね、オレはお金稼がなきゃならないし、
この仕事って時間選べるし、普通の仕事よりいいお金貰えるしね。」

チカは無神経なことを言ってしまったと反省した。

「そっか。ごめん。

でもホント軽蔑してるわけじゃないよ。

ただ…リョウくんはカッコいいから彼女とか嫌がらないのかなって。」

「居ないよ。彼女なんて…女の子と付き合ってる暇なんか無いし、女の子に使う金もない。
オレ、他の仕事もしてるし、自由になる時間ほとんどないから。」

その瞬間、チカが思い出したように声を上げた。

「あ!君、もしかして…あの…隣のチームの…派遣の…
さ、鷺…え〜っと…鷺…」

「やっぱバレちゃいましたね。
そうです。隣のチームの鷺坂アラタです。
山田チカさん。」

チカは相手の正体を口にすべきじゃなかったと一瞬で後悔した。

「…まさかの…知り合いって。

メガネかけてないし前髪上げてるから見たことあるって思ってもなかなかわかんなかったよ!」

チカは頭を抱えてチラリとリョウの顔をもう一度確かめる。

「はーっ…やっぱり鷺坂アラタだー。

マジかー。」

チカは初めてアラタが派遣でチカの会社にやって来た時、ひと目見てモロ好みだと思っていた。

「あのさ…私がこういうサービス使ったの黙ってて貰えるかな?」

アラタはクスッと笑ってチカに言った。

「もちろんですよ。
この仕事は守秘義務ありますから。

それより山田さんもこの仕事の事絶対バラさないで下さいね。」

チカは自分のことを心配していたが
考えてみたらアラタだってこの仕事をしてる事がバレたら困るのだ。

お互い知られたらまずいので口外されることはないかと胸を撫で下ろした。

「で、お金も貰ってるし、時間までは彼氏になりますよ。チェンジしないですよね?

えっと、手を繋ぐまでならオッケーです。
それ以上はお触り無しで…って決まりですから。」

淡々と再度説明されると興醒めだ。

「なんだかなぁ。
チェンジも触ったりもしないよ。
ま、とにかく一緒に飲もう。」

チカは不思議とシュンスケの浮気の悲しみはさっきより薄れていた。

「悪くないね。レンタル彼氏。」

「え?何だよ急に。」

「何?突然タメ口?」

「今は彼氏なんだから別にいいんじゃ…」

「いいよ。ほら、もっと飲みなよ。」

アラタは仕事だということを忘れてしまうほど
チカと色んな話をした。

レンタル時間は過ぎていたけどその後も2人で閉店まで飲んだ。

その頃には2人とも記憶がほとんどなくなるほど酔っていた。


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