竜帝陛下と私の攻防戦
ここから始まる彼と私の攻防戦
 ガトーショコラを食べた昨日に続いて皇宮の庭園散歩へ誘われた佳穂は、悶々とした気持ちのままガセボに設置されたベンチに座っていた。

 隣に座るベルンハルトに触れないよう、不自然にならない程度に離れようする。しかし、すかさず伸びてきた腕に捕らわれてしまう。

「どうかしたのか?」
「何でも、無いです」

 抵抗する間も無く、引き寄せられ抱き締められてしまい、佳穂の心臓の鼓動は壊れんばかりに速くなっていく。
 少しでもベルンハルトと隙間を作りたくて、彼の胸へ手を置いて抵抗を試みる。
 手のひらから硬い胸板の感触を感じてしまった上に、背中へ回されたベルンハルトの腕に力がこもり更に密着する羽目になってしまった。

「ちょっ、くっつき過ぎです」

 上を向いて抗議すれば、佳穂の額とベルンハルトの高い鼻が触れそうになる。

「俺を避ける理由を話さなければこのままだ」
「理由は、大したことじゃ、無いです。なんでまた此処にきたのかなって思っただけです。ただ、」

 恥ずかしくて視線を逸らしたいのに、蒼色の瞳に射ぬかれたように身体は動かなくなってしまい腕の中から逃げられない。
 真っ赤に染まる顔を自覚しつつ、恥ずかしさで佳穂の視界は潤んでいく。

「ただ?」

 続きを促すベルンハルトの声は甘く、指先で背筋をなぞられてしまい変な声を上げかけた。

「ぅ、ただ、恥ずかしいだけです。誰かに見られているのは、慣れていないから」

 幼い頃から周りに誰かがいたベルンハルトとは違い、好意の視線とはいえ四六時中誰かに注視されているのは、佳穂にとって不慣れで気が抜けない状況だった。
 しかも、佳穂の立ち位置は皇帝の大事な客人、恋仲だと見なされているらしく、侍女達から期待のこもった視線を向けられると、いたたまれない気分になる。

「俺の傍にいるのは、嫌か?」

 耳元で低く甘く囁かれ、佳穂はびくんっと肩を揺らす。
 隙間無くベルンハルトと密着した状態では、彼の言動に一々反応してしまうのは仕方ないとはいえ、身がもたない。

「……嫌じゃない、けど、吃驚したし、恥ずかしかったの」
「ならば、問題は無いな」

 背中へ回した腕はそのまま、もう片方のベルンハルトの手は素早く捲り上げたスカートの内へと侵入する。

「ひゃあっ? ちょっ、ベルンハルトさん!?」

 あまりの早業に、気付いた時にはベルンハルトの手はスカートの内側へ侵入し、太股を撫で始めていた。
 渾身の力を込めて抱き締める腕を外そうと抵抗を試みたが、ベルンハルトは微動だにしない。

「俺の皇帝という立場も、周りの視線も気にならないようにしてやろう」

 太股を撫でる不埒な手が徐々に内側へと移動していき、これ以上の侵入を防ぐために下半身へ力を込める。

「今の俺は、ただの男だ。俺の指が触れる快感に身を任せれば、煩わしいことなど消える」
「そういう問題では無いです!」

 されているのは同意無しのセクハラで、ただでさえ心臓が繋がっているせいで感覚と感情が引き摺られてしまうのに、甘く囁かれてしまえば納得してしまいそうになる。

「だ、駄目っ」

 太股を撫でるベルンハルトの手をスカートの上から押さえる。

「触れるのが嫌でないのなら、問題は無いだろう」
「問題とかじゃなくて、そういうことは順序と心の準備があるのっ! 流されてするのは嫌だし、ベルンハルトさんは皇帝陛下でしょ。私はきっと元の世界に戻るのだから、こんなことしていて他の人達に勘違いされたらどうするの?」
「カホ」

 甘さを含んでいるのに、威厳に満ちた声色で名前を呼ばれた。それだけで佳穂は何も言えなくなる。

「望めばお前が妃だ」
「え?」

 何を言われたのか理解が追い付かず、佳穂は大きく目を見開く。

「妃になれと、今はまだ無理強いはしない。あくまでもカホの意思は尊重する。だが、触れられるのは嫌では無いのならば、遠慮なくお前に触れるし抱く。子はまだ出来ないように調節するから安心しろ」

 ニヤリ、という効果音が聞こえてきそうなくらい愉しそうにベルンハルトは笑った。
 対する佳穂は自分の中から、一気に血の気が引いていく音が聞こえた気がして、鈍る思考を何とか動かして言われた言葉を頭の中で整理する。

「妃、結婚? 無理強いはしないけど、抱くって、子が出来ないようにって、それってどういうこと?」

 今はまだ、ということはいずれ妃にすると、プロポーズとは思えない台詞で宣言された。
 佳穂の意思を尊重すると言いつつ、ベルンハルトは手放してくれない。
 堂々と抱くと宣言されて、貞操の危機をひしひしと感じ早いところ逃げ出したいのに、腹部へ回された腕の力は強くて逃げられない。

「拒否も、抵抗もしたいならすればいい。いずれ、体だけでなく心も魂も俺のものにする。お前から俺を求めるようにしてやる。逃がすつもりはないからな。わざわざこの世界へ連れ帰るくらい、俺を本気にさせたのだから覚悟していろ、ということだ」

 物騒きわまりない発言をしたベルンハルトの、獲物を前にした肉食獣めいたギラギラした光を宿した蒼色の瞳を見てしい、佳穂の背筋に寒気が走り抜ける。

(連れ帰るくらい本気に、と言われても貴方が手を放してくれなかったからじゃない……なんて、)

 文句の一つも言いたいのに、獰猛な彼の本能を知ってしまうと恐くて言えなかった。
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