22時からはじまる恋物語

ここはお勉強をするところ


目の回る忙しさとは、正にこのことだと思う。

「せんせー、テスト終わったー」
「はーい、丸付けいくね」
「先生、ここわかりません」
「ん?どれ?あ、これ古谷君この前克服した方程式だよ。まずはここを......」
「せーんせー」
「あ、ごめんごめん!ちょっと、今日やるとこのテキスト読んでて!」
「先生トイレー」
「え!?トイレ!?自分でいきな!」
「せんせ......」
「あーはいはい!」

パーテーションで区切られた机の間を、キャスター付きの椅子をコロコロ動かしながら移動する。
わたしが勤めるこの塾は個別指導の為、一コマで教える子の学年も内容も全く異なるもので。

最大3人までを一コマで受け持つことになるが、ここ最近はマックス3人のコマばかりだ。

それもこれも......

「ねね、楠木君教えてるよ」
「やっばー、スーツ姿やばくない?めっちゃかっこいいんだけど」

斜め前のパーテーションで、女子高生がチラチラと後ろを振り向きながら小声で話している。

その視線の先は、いつもの様に落ち着いた授業を進める、楠木君。

キャッキャと熱い視線を送る彼女達の様な、所謂「楠木君目当て」の生徒が、ここ数週間で爆発的に増えた。

と言っても、楠木君は中3の受験生しか受け持たない特例講師なので、それ以外の生徒はひたすら眺めるしかできなくて。

結果、浮ついた雰囲気が教室に漂うことになり、それを引き締めるのもまた、講師の骨の折れる作業となりつつある。

< 32 / 40 >

この作品をシェア

pagetop