#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
撮影が押すこと自体は何も珍しくない。通常の予定時刻よりも2時間までは誰もが微かな不安を抱えながらも自分たちの仕事を回していた。
「理々杏さん、さっき言ったこと覚えてる?」
「すみません」
この地獄を引き寄せた元凶ともいえる人物、若手女優の理々杏が今にも泣きだしそうな顔で監督の言葉を必死に受け止めている。
「いや、すみませんじゃなくて」
「……すみません」
理々杏がひとりで撮るシーンでNGを連発し続け、撮影は大幅に遅れを取った。いや、現在進行形で遅れを取り続けている。
共演者たちは早々に見切りをつけ、明日の撮影に備えてホテルへと行ってしまった。自分がベストな演技をするためにそうすることは何も悪くはない。
美聖はそのすぐ後に理々杏とのシーンがあるというのもあるが、他の共演者たちが現場を後にしたあとも、そこに残っていた。