#推しが幸せならOKです@10/15富士見L文庫から書籍化
息吹は美聖の笑みをしばらく見つめ、それから、運転手に声をかける。
美聖は立ち上がり、少し離れて息吹を見守る。扉が閉まる直前、息吹が美聖を見上げた。
「ありがとう」
息吹が微笑む。美聖も笑い返す。
走って風に逆らった美聖の髪もおかしな向きに曲がっていることに、彼自身は気がついていない。
「またね、美聖《・・》くん」
息吹の綺麗な声が、エンジン音が響くその直前で、美聖の耳に滑り込んだ。
「…………名前、」
タクシーの姿が見えなくなっても、美聖はしばらくその場を動けずにいた。