好きとか愛とか
母が義理の父と再婚したのは今から二年ほど前の春休み。
中学二年になろうという頃合いで、母と一緒に奥津壱矢の家へ引っ越してきた。
念願の兄と妹が一度に手に入ると喜んだのも束の間、自分の立ち回りの悪さが仇となって私はこの家で完全に孤立した状態になっていた。
15年慣れ親しんだ苗字を変えるのも嫌で、自分だけもとの名前である斎賀壱(さいがいち)を名乗っているのも原因の一つだろう。
自分だけが他人だった。

あとは、お馴染みの問題。
きょうだい間の比較だ。
同じ壱なのにとか、同じ女なのに愛想のいい愛羅ちゃん(あいら)とは大違いねとか、そういう今さら言われてもということや人格やらの否定がことさら目立った。
愛羅とは一つ下の義理の妹で、お人形さんのように可愛らしい顔をした、おしとやかで穏やかなよく気の利く女子。
小言は全て母からのものだが、当然冗談めかしていうので悪意には取れない…。
言われた当人以外には。
そんなこと言われても、どうしようもない。

母も新しい家族と愛する新しい旦那、そしてその子供二人に気に入られようと必死だったのかもしれない。
私が保育園に上がってすぐ離婚し、女手一つで育てるのに疲れてしまっていたのもよく分かっている。
私を人身御供のように扱ってまでしても、新しくできた義理の子供に受け入れてもらいたくて、誉めちぎっていたのだろう。
私との絆はできているから、今さら揺らぐことはないと信じきって。

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