大好きな先生と、月明かりが差し込む部屋で過ごした夜
始発電車に乗り込む予定なので、家族に声を掛けないで家を出る。
早朝、物音を立てず外に出て駅へ向かう予定。
何も言わずに、挨拶もしないままこの町を出たほうが気が楽。
弟と幼なじみのアノ子とも、顔を合わせづらい。
大学の近くで一人暮らしをすると伝えてはあるけど、旅立つ日時は知らせてなかった。
お姉ちゃんと呼ばれてた時は、あまり良い気分ではなかったけど……
今は、沙也加と別れるのもちょっと寂しく感じてる。
「どうしたんだ美優、玄関に突っ立ったまま」
父が不思議そうに言ってくる。
私はちょっと考え事をしていただけなのに、久しぶりに会った娘と感動の再会とはほど遠い冷めた言いぐさ。
昔から父とは意見が合わず、ぶつかる場面があったけど、いつも母が仲裁に入ってくれたから不仲ではない。
父親なんて、どの家庭でも娘との関係はこんな感じだろうと思っていたから、腹も立たないし嫌いでもなかった。
つい、年齢が近い父親と先生を比べてしまう……
先生は物静かで優しいイケメン、雑でいい加減な父とは正反対だから。