初恋を拗らせたワンコ彼氏が執着してきます
 電話の相手は桜田フーズの社長、母の再婚相手で義父でもある。

『仕事は物凄く出来て外面はいいのに、お父さんには冷たい』
 社長はわざとらしく悲し気な声を出す。軽い口調は桜田グループを牽引する若きカリスマ社長だとは思えない。

「今回の出張、社長直々の命令だったじゃないですか」

 今後の自分には必要な経験だし、実際来てよかったと思っている。しかし今唯花との関係が微妙になっているせいで恨みがましい言い方になってしまう。

『まあまあ、これでも君の希望はいろいろ聞いてあげてるんだから、大目に見てよ』
「確かに、それは感謝してますけど……」
 忙しいはずなのに、この人はいったい何のためにわざわざ電話をしてきたのだろう。

「出張の成果は帰国後まとめてご報告に上がりますが?」
『君が優秀なのは分かってるから心配していないよ……ああそうだ』
 いかにもついでのように社長が言う。

『今日秘書に妙な話を聞いたんだが、透くん婚約した?』
「……は?」

 思いがけない内容に変な声が出た。事情を聞き透は絶句した。

『やっぱりね。めんどくさいことになったなぁ、うん、ここはお父さんの出番かな?』

 かわいい息子の恋路だからね、と電話の向こうで機嫌のいい声がした。
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