初恋を拗らせたワンコ彼氏が執着してきます
 その社員は奥村さんの取り巻きだったらしいと、透は少し言いづらそうに教えてくれた。

「そっか。仕事を覚えた方が彼女の為だと思って根気よく指導していたつもりだったけど、小姑みたいって言われてたからね……」
 以前、彼女たちの会話を聞いてしまったことを思い出す。
 嫌われているのは知っていたが、嫌がらせまでとはさすがに悲しくなってくる。

「気にすることないよ。唯花さんは当たり前のことをしてた。どう考えてもあっちがおかしい。彼女たちは軽い嫌がらせで罪はないと思っているみたいだけど、そうはさせないから」

 透はこちらを見ながら強い言葉で慰めてくれる。
 犯人特定に至ったのは、エラーの不自然さに気付いた島津が上長に進言し部内調査をしたおかげらしい。

「島津君さすがだわ。お礼言っとかなきゃ」
 唯花が呟くと透が途端に不機嫌になる。

「唯花さんって島津さんと仲が良いよね」
「島津君とはただの同期だからね。この前は失恋した彼を慰めてただけ」
「でも、あなたに優しくされたら、コロッと好きになっちゃうかもしれない」

 透は引かない。そんな拗ねたような目で見るのは止めて欲しい。 

「あはは、ないない」
「ここにコロッといった前例がいるんだから安心できないんだよ……ね、こっちに来て」
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