初恋を拗らせたワンコ彼氏が執着してきます
 透も年の離れた弟がかわいいようで、実家暮らしは弟が寂しがるからという理由だったらしい。
 
 唯花は透の婚約者としてこの家を訪れている。
 
 初めて桜田家に挨拶に行った時はさすがに緊張した。
 桜田社長は歓迎すると言ってくれたけれど、透の母の気持ちはどうなのだろうと思ったのだ。
 
 しかし杞憂だった。
『透が子供の頃から気を遣って溜め込んだものを爆発させちゃったのは、全部私のせいだったの。でも唯花さんのお陰であの子吹っ切れたように前を向いてくれたのよ』

 本当にありがとうと、涙ながらに感謝されてしまった。どうやら桜田家の方々に自分は恩人として扱われていたらしい。
 
 21歳で透を生んだという透の母は現在46歳。とても綺麗でたおやかで、38歳の桜田社長と並んでも年齢の差は感じない。
 きっと夫に愛されているという幸福が彼女を輝かせているのだろう。

『透には唯花さんに無理強いするなと言ってあったのだけど、受け入れてくれたならこっちのもの……じゃなくて、お話進めていいわよね?』
 透の母からは結婚を認めないどころか逃がさないぞという気迫を感じた。

 桜田社長の両親は既に亡くなっており、口を挟んでくるような親戚も今はいないという。
 透と桜田家が前のめりで話を進め、気が付いたら結婚式の日取りまで決まっていた。
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