怜悧なCEOの恋情が溢れて、愛に囲われる政略結婚【マカロン文庫溺甘シリーズ2023】
『おい、大丈夫か?』


 声のトーンがいつもより低い。
 昨夜、取り乱した私を目にしたものだから、心配して電話をくれたのだろう。


「おはよう、束縒。せっかく個室をリザーブしてくれたのに、昨日はごめんね」

『俺のことはいいから。それより、アイツから連絡は?』

「…………」


 沈黙することで、束縒は察してくれたらしい。


『なんなんだアイツは! ……冬璃、あんまり思い詰めるなよ? とにかくしっかり飯食って寝ろ』

「ありがと」

『じゃあな』

 
 短く励ましの言葉を残して、束縒はそのまま通話を切ってしまった。
 久米さん以外に心配してくれる人がもうひとりいた。
 と言っても、昨日はたまたまデートを予定していた場所がサンセリテのレストランで、一部始終を見られてしまったからなのだけれど。

 スマホをタップして、憲一朗さんとメールのやり取りをした画面を見つめる。
 昨夜私が送信したところで終わっていて、それはいつまで経っても既読がつかない。
 電話もそうだ。私の番号で着信履歴が残っているはずなのに、いっこうに折り返してはこない。

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