3年後離婚するはずが、敏腕ドクターの切愛には抗えない
 もう何度同じことを自分に言い聞かせてきただろうか。いい加減に慣れなくちゃ。私は理人さんと契約結婚をするんだ。私も割り切って仲が良い夫婦を演じなければいけない。

 まるで呪文のように理人さんと一緒に過ごす時に頭の中で唱え、少しずつ慣れてきた頃。

 家族や友人、病院関係者を大勢招いた私たちの結婚式が盛大に執り行われた。

「あなたはこの女性と結婚し、夫婦になろうとしております。あなたは健康な時もそうでない時も、この人を愛し、この人を敬い、この人を慰め、この人を助け、その命の限りかたく節操を守ることを誓いますか?」

 神父の問いに、白のタキシード姿の理人さんは力強い声で「はい、誓います」と述べた。

 次に私の名前を呼ばれ、神父は同じ言葉を述べていく。

 参列客の中には、すでに泣いている祖母がいる。さっきも控室で私のウエディングドレス姿を見て心から祝福してくれた。
 理人さんの祖父だって今日が楽しみで仕方がなかったと言っていたじゃない。大丈夫、彼となら三年間、ちゃんと夫婦を演じることができるはず。

 私も誓いの言葉を述べ、最後に神父は「それでは誓いのキスを」と言う。

 ゆっくりとベールが捲られると、タキシード姿のカッコいい理人さんが鮮明に見えた。

 これから誓いのキスをするというのに、決してこの人を愛してはいけないなんておかしな話だ。でも好きになってはいけない人。それを彼は望んでいないのだから。

 だけど、ここ最近は理人さんと一緒にいてもドキドキすることが減ったもの。無事に契約を終えることができるはず。

 ゆっくりと端正な彼の顔が近づくスピードに合わせて目を閉じる。きっと理人さんと最初で最後のキスで、私たちの契約結婚生活がスタートしたのだった。
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