夢物語

あの子を見つけた時にどうなるのか。それは今の時点では何も分からない。猫さんはあの子がきっと逃げるなんて言うけれど、探して欲しがっているのに逃げるだなんて想像もつかなかった。……けれど、猫さんが言うならそうなのかもしれない。でも、だとしても私は大丈夫。今この場でそれだけは言い切れる。


「もし逃げちゃったらまたその時考える。見つけていいのか、いけないのか。駄目だったら今度こそ諦めるかもしれないけど……でも、それでも大丈夫だって今なら言い切れるよ」


猫さんにあの子を見つけられないようにしていると言われた時、もう猫さんを信じてはいけないのだと悲しく思った。どんなに私が猫さんの事を好きでも、目指す方向が違うのなら彼に全てを委ねる事は出来ない。私にとって一番大事な事はあの子を見つける事だから、もう猫さんとは分かり合えないし、私はここで何も成し遂げられていないのだと落ち込んだけど、それは違った。

猫さんは私が探す事を諦める様に促しただけで、探す事自体を妨害した訳ではないし、私はあの子の違う世界も回れた事で犬くんとも出会い、この世界の仕組みを知る事が出来た。まだ向かうべき場所がある事も分かっている今の私は、前を向いている。答えに辿り着いたその先で、また一からやり直す事になって、また落ち込む事になってしまったとしても、もう大丈夫。それは今、猫さんが教えてくれた。


「だって、その時はきっとこんな風にまた、猫さんが助けてくれるでしょ?」


猫さんは、ずっと私の事を考えてくれていた。私とあの子が望む形でなかったとしても、私が決断出来る幅を広げてくれたのは間違いない。私があの子を見つけたその先まで、猫さんは考えて行動してくれていたのだ。猫さんは間違っていないし、猫さんは誰より信頼出来る人。私を助けてくれる、私の味方。困った私を、きっと猫さんのやり方で助けてくれると信じている。

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