【本編完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

【おまけ②】少しの距離

 ソフィが風邪に伏せったとの報せを聞き、僕は急いで馬車を走らせてルヴェリエ邸に向かった。
 おば様に案内されてソフィの部屋へと入る。

「ソフィっ!」
「ジル……、どうしてここに?」
「君が風邪で倒れたと聞いていてもたってもいられず」

 ソフィはしんどそうな身体を僕を気遣ってベッドの上に座ると、ふっと微笑んだ。

「倒れたなんて、またお母様が大げさにいったのよ」
「いいや、熱もかなり高いと聞いたよ」

 そういいながら僕はソフィのおでこに自分の手を当てる。

「やっぱり熱いじゃないか! ほら、寝なきゃ」
「ジルって昔から過保護よね」
「そんなことはない! 現に以前僕が風邪で倒れたときにソフィが……」

 そこまでいって自分で墓穴を掘ったと思った。
 目の前にはさらに真っ赤な顔をするソフィがいて、自分のやったことを思い出す。

(あのときは熱にうなされて、ソフィに無理に迫ってしまった)

 お互いに気まずくなって目を逸らすと、少しの間沈黙が流れる。

(ソフィの傍にいたいけど、ちょっと気まずい)

 僕はベッドの端に座って、ドアのほうを向いた。
 すると、僕の手が急に熱い手に掴まれる。

「──っ!」
「ジル……頭なでて……」

(ソフィが素直だ、しかも可愛い。なんて可愛いんだ)

 僕はたまらずばっと振り返り、ソフィの顔を見つめると、ソフィは苦しいのか涙を浮かべて僕のサファイアブルーの瞳を見つめる。

(んぐっ! これはきつい。なんだその上目遣いは。我慢しろ、僕)

 そう心の中で思いながら、ソフィの要求通りに優しく頭をなでた。
 すると、ソフィは冷たいのが心地よいのかゆっくり目を閉じて呼吸を整えていく。

「気持ちいい?」
「うん、冷たいし、それにジルの手好き……」

 『好き』という言葉にどきりとしながら、僕はそのまま頭をなでることを続ける。
 すると、ソフィは僕のなでる手を自分の頬に持っていき、ぺとりとくっつけた。

「──っ!」
「ジルの手、男の人の手で大きいけど優しい」

(これは何の拷問だ?!)

 僕は心を落ち着けるのに必死で、頭がうまく回らない。
 なんなら僕まで熱にうかされそうになる。

(こんな状況をソフィに経験させてたのか……)

 自分が風邪に伏せっていた頃に看病してくれたソフィのことを思い出す。

「ジル」
「なんだい?」
「今日は傍にいてほしい」
「──っ! ああ、ずっと傍にいるよ。だから安心して眠るといい」

 僕のその言葉で安心したのか、しばらくするとすーっという寝息が聞こえてきた。

(よかった)

 そっとソフィの頬をなでて、僕は微笑んだ。
 そして、僕はベッドの隣にある椅子に腰かける。

(ソフィ。今はこの距離を許してほしい。これ以上近づくと僕じゃなくなってしまいそうだ)

 そう呟いて、僕はそっとソフィを一晩中見守っていた──
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