S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす

 長い黒髪をお団子にして、品のよさとあどけなさが調和した可愛らしい顔立ちの彼女に、私はそれぞれの持ち場へ向かう皆に交ざってさりげなく近づく。


「よかったね、棗ちゃん。祥が来て」


 そばにくっついてこそっと耳打ちすると、平然を装っていた彼女が一瞬でにんまりとした顔に変わった。


「花詠さ~ん、俄然やる気出てきました! 祥くんの着物姿を見るだけで、ご飯三杯イケます!」
「たぶんあの子も同じこと思ってるよ」


 着物の袖から控えめなガッツポーズを覗かせる彼女に、私は呆れにも似た笑いをこぼした。年下彼氏の祥も、着物姿の棗ちゃんにひと目惚れしたのだから、今夜会えるのを心待ちにしているだろう。

 内緒の交際を始めて約二年。決して人前でイチャイチャしないが、その分私の前ではふたりとも遠慮なくデレる。もう勝手にやっててくれと放っておきたくなるくらいデレる。本当に仲よしなので、このまま結婚までいってしまうかもしれない。

 客室が綺麗に整っているかを確認しに行くため、茶房へ向かう棗ちゃんと館内を歩きながら、つかの間の雑談を楽しむ。
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