Anything for you
振り向いたその人は、モデルのように美しい女性だった。

長身、スリムで、顔立ちも類まれな美女。

「あはは…いや、よかったです。まだ数段のところだったから」

そう言って僕が少し笑うと、落下の恐怖に怯えた表情だった彼女も、ほんの少し笑顔を見せた。

その笑顔は、あどけない少女のようなのに、どこか憂いを帯びていて、目が釘付けになってしまうほど…。

僕は、決して面食いではない。

中原さんにしても、こんなことを言ってはどうかと思うが…決して美人ではなく、有り体に言えば地味だった。

「本当にごめんなさい!重かったでしょう?手首、傷めませんでしたか?」

手首…?

そう言われてみると、ジンジンと痛みを感じてきた。

「いえ、大丈夫です」

そう答えたが、

「本当ですか?」

そっと手首をつかまれた時、

「痛っ…!」

思わず声が出てしまったせいで、目の前の彼女は、

「やだ…私のせいです。すぐ病院に行きましょう!」

そう言うけれど、

「そんな、大袈裟ですよ」

更に痛みを増す手首を隠して言っても、

「いえ、それでは私の気が済みませんから…!近くに整形外科ありますし、今ならまだやってます。行きましょう?お願いですから」

明日は土曜だし、これ以上痛みが増すと、やはり厳しそうなので、彼女の言う通りにした。
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