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「賀永です。失礼します」

 社長室の扉を開けて、思わず1歩後退り、小さく深呼吸してから中に入る。
 正面には社長がいて、そこから道を作るように駿介と旭、それから国浦と河野がいた。

「なかなか面と向かって話す機会はないよね。今回呼び出したのは、賀永さんへの内示です」

 言って笑う社長は、旭に激似だった。公表していないので知っている人は少ないが、社長である新は、旭の実兄である。

 内示? と首を傾げた千真は、次の瞬間には、鳩が豆鉄砲を食ったように目を丸くした。

「賀永千真、2月28日をもって経理部から副社長付き秘書に任命します」

「……はい?」

 今のは、果たして日本語だったのだろうか。
 しんと静まり返る社長室の中、千真の頭の中で疑問符がぴょんぴょん跳ねる音がする。

 そもそも、オーキッドに副社長なんていなかったはずだ。
 呆ける千真に、賀永さん、と旭が小さく声をかけてくれる。

「駿介が、副社長に就任することになったんだ。つまり、駿介の専属秘書ってこと」

「……え?」

 そんなこと、説明されても判らない。
 だって、副社長って、誰が? 秘書? つまり、そういうこと?

「……えええぇぇぇ!?」

 千真の困惑した声が、社長室に響いた。
 千真を守るためとはいえ、駿介が提案したこの件について、社長以下に笑われたのは、言うまでもない。


fin.
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