幸せのつかみ方
「庭で咲いたキキョウ見て千夏が好きだったなって思ったり。
扇風機出すときにメモが貼ってあって俺が困らないようにしてくれてて優しいなって思ったり。
苦いゴーヤ食って千夏のご飯が食いたくなって。
一年中、ずっと千夏のこと感じてた。

那奈じゃない。
千夏のことをこの1年ずっと考えてた」

「・・・・・」

裕太が私を見た。
目が合う。

「やり直したい。頼む。残りの人生、一緒に過ごさないか?」

「・・・・・」

真剣に見つめてくれる裕太の瞳。
でも、私は気付いてしまっている。

私が一緒にいたい人は裕太じゃないことを。
私が一緒にいたいのは、私が好きなのは樹さんだってことを。

ゆっくり首を振った。

「ごめんなさい。裕太とやり直す気はないの」

「そうか・・・やっぱり、許せないよな」
と自分を納得させるように数回頷いた。

「ううん。そうじゃないの」
「?」 
「・・・・実は・・・」 
「?」
「・・・他に好きな人ができた」

裕太は驚いて目を丸くした後、
「あああああ、そうかああああ」
と、裕太はため息とも驚きとも言えないような声を上げた。

「ごめんなさい」
と小さく頭を下げた。

裕太はソファの背もたれにに大きく縋って、天井を見つめながら、
「いや、謝ることじゃないよ。そうか・・・で、再婚するのか?」
と問うた。

「ううん。付き合ってない」
私の返事を聞くか聞かないかくらい早くに、首をグルんとこちらを向けた。

「付き合ってもないヤツに俺は負けたのか?」
と言うので、
「他に好きな人がいるのに他の人と結婚するような人にはなりたくありませんから」
とぴしゃりと言うと、
「ちゃんと千夏のこと好きだったって!」
と怒られた。

「で、気持ちは相手に言ったのか?」
首を振ると、
「俺が言うのもおかしな話だが、ちゃんと告白した方がいいぞ」

「この年で?」
「人を好きになるのに年齢関係ないだろ」

「そうだけど。2度も断ったし」
「なんで?好きなんだろ?」

「年下だし。私じゃ釣り合わないよ」

裕太はじっと考えた後、
「好きな男に好きだと言われてなぜ断る?
人生は一度きりなんだろう?
好きな男が好きだと言ってくれるんだ。
恐れずに受け入れたらいい」


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