幸せのつかみ方

【樹 side】

千夏さんからの電話を切った。

初めて聞く千夏さんの電話の声。
屋上で聞く時より、ゆっくりとした、丁寧な話し方。
ほんの少し、作った声。

可愛い声だった・・・。

机に両肘をつき、組んだ指先を額に押し当て、俯く。

やばい。口元がにやける。
まるで中学生みたいだ。
うずうずする心を落ち着けようと目を閉じ、何度か深呼吸をした。


今は仕事中。
公私混同したのは初めてだ。


偶然を装って屋上で千夏さんに会えるように毎日屋上に通っていた。
しかし、仕事がそれを許さない時もあった。
千夏さんの昼休憩は他の事務職員と3交代で入っているので、時間が合わないことも多々あった。


もう偶然を待っていられない。


チャンスは自分で作らなくては。

医事課に連絡し、まるで仕事の用があるのだというような態度で言伝を頼んだ。
待ち合わせに遅れるわけにはいかない。
そうとなれば、昼休憩までの残り時間、しっかり仕事をしなくては。



気合を入れ、資料に目をやった。



【樹 side 終】


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