幸せのつかみ方
パウダールームに入り、鏡の前に立つ。

濃いアイメイクはしていないから、黒い涙の跡はついてはいないが、ファンデーションもアイメイクも崩れ切ってヨレヨレになっていた。

「うわ・・・。ひどい顔」

ポーチから、メイク落としのコットンで拭きとる。

ここからは時間との闘いだ。
樹さんを待たせている。

ざっくり。
でも隠すところはきっちり隠す。
ポーチには化粧直し程度のものしか入っていない。
その中でできる限りのメイクを施す。

口紅を塗ったところで、女の子が2人入ってきた。

急いで場所を開けようと、鞄にポーチを戻す。

「すっごいかっこいい人だったよね」
「大人の色気が半端ない!」
「背も高かったよね」
「一人だったよね」
「いやいや、絶対彼女いるよー」

興奮して話をする二人をちらりと見る。

まだ20代くらいだろう。
相当なイケメンさんがいたんだろう、大興奮だ。

「急いで化粧してもう一回見に行こうよ」
「うん。見るのはタダ!」
「それな!あんなかっこいい人なかなか見れないよ」


そういえば、樹さんも中華街で女の人に見られまくってたな・・・ん?
もしかして、この子たち、樹さんのこと言っているのかしら?

あ!
急がなきゃ。
樹さんを待たせてるんだった。
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