幸せのつかみ方
「樹さん」
千夏さんが俺の姿を見つけて、軽く手を挙げた。

千夏さんに近づき、顔を見つめた。

「ちょっと、そんなに見ないでよ。隠したものが見えちゃうじゃない」
「ふふ。隠したいもの?」
「年上の女性には聞いちゃいけないことがあります」
「すみません」
「あやまんなー!」
と笑う千夏さんの目は少し腫れてるし、まだ充血している。

俺のために急いでメイクを直したんだろうなと思うと、千夏さんが可愛くて仕方ない。

頬に横髪がくっついている。
手を伸ばし、頬に着く髪を耳にかける。

千夏さんの目がキラッと光る。

何を考えているのだろうか?
俺を意識した?
いい意味で男として意識して欲しい。

警戒されることは避けたい。

前回失敗してるから。
期待はしてはいけない。
期待するな。

・・・・そう思っても、淡い期待に心を震わしてしまう。


「何か買いました?」
と千夏さんが聞いた。
千夏さんのことで頭がいっぱいで何も見ていなかったなんて言えない。

「え?あー。何にも買ってない」
「私も少し見てもいいですか?」
「うん。一緒に見よう」

横に並んで店内を歩き回った。


【樹 side 終わり】


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