幸せのつかみ方
画面には裕太からの画像が送られてきたことを知らせるメッセージが表示されている。


樹さんじゃなかった。
・・・・・・・・。

LINEが樹さんからでなかったことにがっかりしている自分に驚く。
樹さんからのLINEを待っている自分に気が付く。
動揺する気持ちを抑え込み、裕太からのLINEを見る。



浅倉裕太「今年も咲いたよ」

そこには庭に咲いたキキョウが写っていた。
裕太の家の庭。
それは私が手入れしていた庭だった。

春にスズランが咲いて、それを追うようにキキョウが咲く。
どちらも多年草の花。
写真にはスズランの花はもう終わってしまって咲いていなかったが、きっと今年も綺麗に咲いていたのだろう。

ピロン♪~
『綺麗だよ 蕾が紙風船みたいに膨らんでいて可愛い』

ピロン♪~
ぷっくりと膨らんだ紫の蕾と、まだ膨らみ切っていない薄緑の蕾の写真が送られてきた。

次々と送られてくるメッセージと写真。
かわいらしい花に口元が緩む。



幼かった直幸は、紫の膨らんだ蕾をポンとつぶすのが好きだったんだよね。

庭で過ごした思い出に心を馳せる。


「かわいそうだからやめなさい」
って言ったら、
「おてつだいしてるんだよ。こうやったら、ポンってなるんだよ」
と花を見せた。

潰れずに、花びらの切れ込みのようなところできちんと切れて、少し花びらが開いたように見えた。

「ね?ぱんぱんになってないとつぶれちゃうんだ。これはポンってなるよ。ママもやってみてよ」
と嬉しそうに直幸は言ったっけ。







あの頃の直幸は『ママ』って呼んでた。
それが『お母さん』になって、『母さん』になった。
もう『ママ』呼びには戻らないだろう。

裕太、私はもう『奥さん』に戻る気はないんだよ。
戻りたくないんだよ。



・・・・・・。


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