変態御曹司の飼い猫はわたしです
***

「豪華だね」
「そうでしょうか?」

 朝食を並べたテーブルに着席しながら、一ノ瀬さんが言った。昨夜も遅かったはずだが、朝日を浴びるワイシャツ姿の一ノ瀬さんは、爽やかすぎて輝いて見える。
 お味噌汁を飲んでいるだけなのに、絵になるなんてずるい。

「これなんかとっても良い出汁が出てる。わざわざ出汁を取ってくれたの?」
「はい。一ノ瀬さん、きっと舌が肥えてるし、市販のものじゃ物足りないかなって」
「早起きしてくれたのか。ありがとう」

 爽やかな笑顔、きちんとくれる食事の感想、食べ終わったら食器を下げてくれて。素敵な人だなぁ。

 よく分からない猫発言がなければ。

「行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
「今夜は早く帰るから、晩御飯もお願いしてもいいかな?」
「はい! 頑張ります!」

 仕事を与えられ喜ぶ私に、一ノ瀬さんは優しく微笑んだ。
 ここへ住むことになった日、新しい仕事や家探しは禁止されてしまった。しばらくはここで、一ノ瀬さんに食事を作ることを仕事にしてほしいと言われたのだ。

 いろいろお金を使わせてしまっているので、強く出られず、とりあえず家政婦のような生活をしている。何かするたびイケメンに褒められて、私は生き生きと家事をしながら暮らしていた。

「こんな会話、新婚さんみたいだね」
「えぇ?!」

 新婚発言に思わずびっくりすると、ぽんぽんと頭を撫でて一ノ瀬さんは出勤して行った。

(結局、猫扱いじゃないですか)

 なんとなく面白くなくて、私は一人、口を尖らせたのだった。
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