変態御曹司の飼い猫はわたしです

 熱も下がり、完全に復活した私は、今後のことを思い悩んでいた。

 一ノ瀬さんへの想いを自覚した今、少しでも稼いで、一刻も早く借りを返したかった。貯金を切り崩して払うと言っても、受け取ってくれないし、だったら働いて返したい。

 飼い猫からのレベルアップを図るには、まずは借金返済。そして経済的に自立すべきだ。
 
「一ノ瀬さん! 私、やっぱり外で働きます!」
「何か欲しいものがあるの?」
「違います! 一ノ瀬さんにお世話になってばかりじゃ嫌なんです!」
「猫ちゃんのお世話は飼い主の義務だよ?」
「もう!」

 一ノ瀬さんは、当初抵抗したが、最終的には私の強い思いに折れてくれた。

 そうして一ノ瀬さんが職場を斡旋してくれることになったのだが。


***


「猫といえばカフェでしょ?」

 連れてこられたのは、一ノ瀬さんの会社のビル内に入っている、お洒落なカフェ。断じて『猫カフェ』ではない。

 会議スペースがあったり、企画書を書いたり、打ち合わせをしたり、社内の人が自由に使用出来るカフェなのだそうだ。

「ここなら客はうちの社員ばかりだし。僕と一緒に出勤できるしね」
「ありがとうございます……!」

 正直、料理好きな私としては、おしゃれなカフェで働けるのは、とても嬉しい。

「店長の佐藤です。よろしく!」
「よ、よろしくお願いします……」

 店長さんは、カフェがよく似合うキラキラとした細身の男性だ。クシャッとした明るいブラウンの髪と大きなクリクリとした瞳が印象的で、人懐っこい笑顔がよく似合う。モデルとしてもやっていけそうな長身の爽やかな男性だった。

 セクハラされた経験のせいで、今も男性は苦手だ。佐藤店長と握手するのに変な汗が出る。一ノ瀬さんは平気なのにな。不思議だ。

「君が雅人の猫ちゃんだね」
「?!」
「薫、余計なことは言うな。タマちゃんのこと、頼んだぞ」
「へいへーい」

 私が飼い猫扱いされていることを佐藤店長が知っていることに驚く。親しそうな雰囲気だが、一ノ瀬さんと佐藤店長は友人なんだろうか?

「あの、一ノ瀬さんとは……?」
「腐れ縁でね。俺がちょっと落ち込んだ時に助けてもらって、ここの店長させてもらってる」
「そうなんですね」
「タマちゃんも雅人に助けてもらったんでしょ?」
「はい、お世話になりすぎていて……早く自立したいんですけれど」
「うーん。それは無理かもね。あいつ過保護だから」
「ふふっ、確かにそうかもしれませんね」

 そうか、誰に対しても助けの手を差し伸べる、優しい人なのか。

 一ノ瀬さんに助けられたのは自分だけではないことを知って少し寂しいが、一方で佐藤店長から聞かされる一ノ瀬さんの話が新鮮で、いつの間にか佐藤店長に対しても警戒心は薄れていた。
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