冬香

第3話 明日の約束

この時間帯は、会社に向かうサラリーマンと幾人かの学生が多い。
「ねぇ春樹君?」
僕は反応を示さない。
「ねぇ春樹君!」
彼女はいかにも、怒っているぞという表情をしている。
「どうして怒っているの?」
「それは私のセリフだよ!春樹君が反応しないからだよ!」
またしても、視線を感じ大きくなりそうな声を抑えた。
「僕は電車は静かに景色を見たい派の人間なんだよ」
「でも反応ぐらいしてくれてもいいんじゃないの?」
「残念だけど、今は遠慮しておくよ。」
彼女は僕の心を見透かしたように、僕達が下りるまでの間一言も話さなかった。
僕は電車の窓に不意に映る、桜の花びらを数えていた。学校から家までは、電車の横を桜の木が並んでいる。
「次で降りるから、準備しといてね。」
「分かってますよ〜」
彼女は何故かテンションが高い。
僕は気になったので聞いてみた。
「どうしたの?何か良いことでもあったの?」
彼女はニヤニヤとしている。
「あれ〜?電車に乗るときは話さないんじゃなかったのかな?」
「それとこれとは、別問題だよ。」
「あははは〜」
「僕は君のそういう所が好きになれそうにないよ。」
「好きになられた覚えはありませんよ〜」
タイミングを見計らったかのように、電車のドアが開く。
「春樹君行くよ」
「まだ話は終わってないんだけど。」
彼女は足早にホームに向かう。電車から降りると
4月にしては肌寒い風が吹いている。
「早く帰るよ、春樹君!」
この子は何を急いでるのだろうか?と思ったが口には出さなかった。
駅から家までは、2分ぐらいの距離である。故に話をしながら帰るには、少し物足りない長さだろう。
だか例にならって僕達は話しながら、帰ることとなった。と、言うよりかは彼女から話しかけてきたという方が正確だろう。
「春樹君って好きな女の子とかいないの?」
「急に何を言いだすのかと思えば。いるわけ無いだろ」
「あら寂しい」
「それは今日2回目だよ」
「よく覚えてたね。偉いじゃん春樹」
「記憶力には自信があるからね。あと、なぜ呼び捨てなの?」
「いいじゃん。私、春樹って名前好きだよ。」
「どんな理屈だよ」
そんな会話をしていると、家に着いていた。
「じゃあ僕は今から用事があるから、ここでお別れだね。」
「仕方ないね。じゃあ明日も学校終わりにいつもの所に来てね。」
それだけ言うと、彼女は来た道を帰っていった。
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