送り犬さんが見ている

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…それからどうやってここまで来たのか、記憶が朧げにしかない。


九郎に去られた私はまず真っ先に、渡瀬神社へ引き返した。作法も何もかも後回しにして、真っ直ぐ拝殿へ駆け寄ると、持ってた金子(きんす)を銭入れごと全部賽銭箱へ投げ入れて、必死にお願いした。

“九郎に会いたい。九郎に会いたい。”

だってこんな別れ方、納得いかない。せっかくこれから一歩ずつ、彼に歩み寄れると思ったのに。

陽が傾くのも忘れ、すっかり辺りが夕闇に包まれても、私は神社から去ろうとしなかった。
暗くなってから山を歩くなんて危険すぎる。九郎も言ってた。
だから二日目の晩は、神社の縁の下にこっそり身を隠して夜を明かした。


…翌朝。三日目。
とある期待を胸に辺りを見回したけれど、当然九郎の姿は無かった。

私は落胆したまま、神社を後にする。
長い長い山道の途中で、私の匂いを嗅ぎつけて九郎が現れるかもと期待したけど、彼は現れなかった…。

長い長い道程を歩いて歩いて…、そしてすっかり陽が沈んでから、私は村岡屋敷の前まで帰って来たのだった。
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