ロマンスに道連れ



―――そう、初めて会ったときからこの人はこういう女だった。

ピシャリ、急に開かれたカーテンのほうに視線を向ければ、眠たそうに目を擦りながらこちらをガン見して「よかった、まだ脱いでなくて」と平気でデリカシーのない言葉を吹っ飛ばしてくる女がいる。

リボンの色は、俺のネクタイとも、ここに落ちてるリボンと同じではない。
すなわち、3年生だ。


「知らん女子と男の甘ったるい声で目を覚ました私、めちゃくちゃ可哀想だと思わない?」

「それは、すげーカワイソウっすね」

「でしょ?だからあんたたちは今すぐ出て行くしかないのよ」

「本当に寝てたんすか?途中参戦しに来たとかでも全然ありっすけど」

「はは、やめてよね。わたしはどうでもいい人に身体許すクソガキみたいなことしないから」


初対面からなんてとげとげしい言葉を送ってくる人だと思った。
でも彼女サイドになってみれば、確かに寝起き一番にこの女の大してかわいくもない声が聞こえてたのだとしたら申し訳ない。俺だって耳塞ぎてえなって思ってたくらいだし。


「センパイ、本当に体調悪いんですか?」

「おかげさまで治りかけてたものが悪化しそうになってきちゃったよ」

「じゃ、今日はもうする気失せたのでこの人には帰ってもらいます」

「あんたも一緒に出て行きなさいよ」

「やー、俺は授業出たくないんで。先輩帰っていいよ」

「キミ、浦野先生と仲いいの?」

「まあ、暇つぶし程度くらいには」


さっきまで目の前で期待ばかりをしていたひとつ上の先輩は、カーテンを開かれた瞬間からすっかり顔色が変わって落ちているリボンを反射的に握り閉める。
お構いなしにカーテンを握っている彼女のほうに向きなおれば、リボンをつけずにベッドから逃げるようにバタバタと上履きも踏んづけて保健室を出て行った。



「あーあ、カワイソウ。年下に弄ばれるなんて」

「それ望みで寄ってきてるんで、しょうがないところっすよね」

「きみ、最低だね、高1なのにダメ男として完成してるよ」

「うまく世の中渡り歩けそうってことでいいですか?」

「オブラートでどれだけ包んでもそんな発言できない」

「面白いっすね、そのたとえ」


俺のことを冷ややかな視線で見下ろしている、赤のラインの入ったリボンをつけている目の前の先輩をじっと上から下まで見る。
すぐにその視線に気づいた彼女は「ヘンタイの目じゃん、猿」と初対面にもかかわらず暴言を俺に吐き散らかしてきた。



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