極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
「早瀬さん、下のお名前は、かほさん、だったかな」

 歩き出しながら聞かれて、果歩は驚いた。

 まさかあのとき、少し話しただけで覚えられていたとは思わなかった。

 びっくりしたけれど、それ以上に嬉しくて、果歩はすぐに肯定する。

「はい! 覚えられてるとは思わな、かったな」

 すぐに普通に話すのは難しくて、たまに止まってしまうものの、逢見はそれを指摘したりしなかった。

「いや、かわいらしい響きだと思ったからね。どういう字?」

 しかしそのように言われるので、果歩ははにかんでしまう。

 確かにころっとしたような響きがあるけれど、そんなふうに褒められれば照れてしまう。

「果実の『果』に『歩む』だよ」

 ひとに説明するときはそう言っていることを言うと、逢見はすぐに褒めてくれた。

「字もかわいらしいね。女の子らしい音や字だ」

 名前を褒めてもらえることは多いけれど、この状況ではますます照れてしまうだろう。

「俺は(しょう)。『飛翔』のしょう、だ」

 名前を聞いて、果歩は感心してしまった。

「パイロットさんにぴったりのお名前だね」

 果歩が微笑んで褒めたからか、逢見は照れくさそうに頭に手をやった。それがくせなのかもしれない。

「そうだね、よく言われる」

 そのあと、子どもの頃から飛行機の写真やおもちゃが好きだったとか、そのために操縦士を志したのは自分でも自然だったとか、そんな話をしてくれた。

 果歩は楽しくそれを聞く。

 その話題が終わらないうちに、レストランに着いた。

 レストランは海に面していて、素朴な木の内装で、店自体もこぢんまりしていた。

 観光客向けの店ではないだろう。

 地元のひとや、何度も来訪して馴染んだお客が訪ねて利用するようなお店だろうな、と果歩は逢見……、翔に連れられて席に向かいながら思った。
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