極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
もう少しだけここにいて
 ふわりと優しい温度になった風が、オープンテラスに届いてくる。

 果歩はつい目を細めて、暮れかけた海を見つめていた。

「とても素敵……」

 思わず呟いていた言葉に、隣に腰掛けている翔が「そうだね」と優しい声で同意する。

「ありがとう、翔さん。とても楽しかった」

 その翔のほうを向き、果歩はすっかり落ち着いた声で、お礼を言った。

 本当に今日はとても楽しかった。

 その気持ちを落ち着いて伝えられることが嬉しいと思う。

「それなら良かった。こちらこそ、付き合ってくれてありがとう」

 翔も、ふっと微笑んで、そんなふうに言う。

 楽しい時間をたくさんくれたのは彼だというのに。

 謙虚にそんなことを言うのだ。

 本当に、素敵なひと。

 果歩は感じ入ってしまった。

 手を伸ばして、テーブルに置いていたグラスからトロピカルドリンクをひとくち飲む。

 甘くて、ほのかに酸っぱくて、この夕暮れの空気を飲んでいるような味がした。

 ブティックを出てから、果歩は翔に連れられて、ハワイのあちこちを巡った。

 帰りの時間があるので、空港からはあまり離れられない。

 時間があれば有名な観光地や自然の中へ行ったり、ビーチで泳いだりシュノーケリングをしたりといった、アクティブな遊びができただろうが、それに比べればだいぶ落ち着いた観光だった。
< 48 / 151 >

この作品をシェア

pagetop