太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~
コンコン
「秋絵、みんなを連れてきたよ」

「母さん、久しぶり」
「あぁ諒、わざわざありがとね」


ベッドは背もたれがリクライニングしてあり、身体を起こした状態の秋絵さんが柔らかな表情でみんなを迎えてくれている。


「秋絵さん、ご無沙汰しちゃってごめんね」
「智世さんも忙しいのにありがとう。兄さんからいろいろ聞いてるから久しぶりな感じはしないけどね、うふふ」

「秋絵、これが俺の娘の麻依で、諒くんの彼女だそうだ、ハハハ」
お父さんが私の背中をバシバシ叩く。

「はじめまして。ご挨拶が遅くなってすみません。羽倉麻依です。諒くんには大変お世話になってます」
ペコリとお辞儀する。

秋絵さんは私を優しく見つめる。
本当にとても優しそう。
お父さんも言ってた。
秋絵は強くて優しいやつだ、って。
それなら…諒は愛されて育ったに違いない。

「諒の母の秋絵です。こんな格好でごめんなさいね。麻依ちゃんは私の姪っ子になるのよね…会えて嬉しいわ。それに諒の彼女だなんて、こんなに嬉しいことはないわね!それにしても本当に可愛らしい…兄さんには似てないのね、ふふふふ」

「そうなんだよ、智世にそっくりだろ?美人でできた自慢の娘だよ」

「ちょっとお父さん」

「そんなご自慢の娘さんを諒にもらっちゃっていいのかしら、ふふふ」

「当たり前だろう?こんなに立派でかっこいい男は他にはいないぞ?なぁ諒くん」

「そう言ってもらえると嬉しいです」
諒がちょっと照れてる。ふふ、かわいい。

「それで母さん、こちらが俺を生んでくれた母ね」

諒が紹介すると私達の後方からそっと出てきた友美さん。

「はじめまして…諒の…母の日野友美と申します」

たぶん…母と名乗っていいのか迷ったんだろうな…
でも諒に「母」と紹介されたから…


「まぁ…あなたが諒のお母様の友美さんなのね…目元がよく似ていらっしゃるわ……あ、ごめんなさい、私ったら名乗りもせずに、ふふ。諒の育ての母の佐伯秋絵です。…あなたにお会いしたかったの。もし会えたらお礼を言いたくて…。諒を託してくれて…私達に育てさせてくれて、ありがとうございました。…そして、あなたが施設に諒を迎えに来られた時に…諒をお返しできなくて…ごめんなさい…」

ゆっくり頭を下げる秋絵さんに、友美さんが慌てて言葉をかけた。

「いえっ、そんな秋絵さんが謝ることなんて何一つありませんからっ。…私は本当に佐伯さんご夫婦には感謝しかありません…こんなに諒を立派に育ててくださって…。それに…私が迎えに行けた時、もう諒は13歳でしたから…私の勝手でこれ以上辛い思いをさせたくありませんでした。…もう一生会わないものと思っていたのに…それなのに今になってのこのこと姿を見せるなんて…本当に身勝手で申し訳なくて…」


「そんなこと…あなたは本当の母親なんですから。それに、あなたは何一つ悪くないのにとてもご苦労されて…。長い間会えなくて辛い思いをされてきたでしょう…ご主人の忘れ形見ですもの、諒は。うちは…私と亡くなった主人、2人とも子供ができない身体なんです。結婚する時も2人で生きていくと決めていたんだけど…ご縁があって諒を育てさせてもらいました。…私はもうそれほど長くありません…ですから、これからは友美さんに託します。諒と麻依ちゃんを、兄さんや智世さんと一緒に見守ってください。よろしくお願いします」


「秋絵さん…そんなこと言わないでください…秋絵さんも一緒に末長く見守っていきましょう!……でも……ありがとうございます…こんな私を諒の母と認めていただいて…ありがとうございます…」

「いいえ、私の方こそ母にさせてもらって…ありがとうございました」


ダメだ、泣いちゃう…

涙が目の膜にいっぱいいっぱいで、これ以上は流れてしまいそう…と思っていたら、ポンと頭に大きな手のひらの感触。
横を向いたら諒が微笑んでくれてた。

うっ、そんな優しくされたら涙がこぼれちゃう…


「…諒もいきなりお母さんが増えて戸惑ったんじゃない?ふふ」

秋絵さんが明るく問いかけた。

「…うん、やっぱ最初はね。どうしていいかどころか、どうしたいのかも全然わかんなくて。ほんと1人で考えても何もわからなかった。…でも」

諒が私の頭をポンポンしながら話し始める。

「麻依が教えてくれたんだ。俺は俺の考え方しかできなかったけど、麻依は俺の気持ちもわかってる上で、生みのお母さんの気持ちも慮って俺に教えてくれて。だから俺も向き合って考える事ができたんだ。それで俺の中で何もわだかまりがなくなってさ。だから今こうしていられるのは全部麻依のおかげ。ねっ、麻依?」


ダメだ…涙腺崩壊です…


我慢してた涙がダバーッと流れてるのを知らない諒が私を覗き込み、ギョッ!と驚いた。

「ああぁごめん、泣かせるつもりはなかったんだけど」

「うん…わかってる、ありがとう。エヘヘ」
ダバダバの涙が止まらないまま、笑顔で返した。


「…麻依…抱き「しめなくていいからね」
「えぇ!? 何で!」

普通に抱きしめようとした諒の腕が、私を抱え込む手前で止まった。
いや…驚いてるのは私なんだけど。

「何でじゃないでしょう?場所を考えよ?」
「んー…だからこそいいと思ったんだけど」
「や…ダメでしょ…」
「……」

あっ、ここでムゥの口しちゃう?

もー…子どもみたいでかわいいんだから…
ふふっ

「諒、ありがとね、気持ちはわかってるから」
「んー」
なっ何でそんなジト目!?

「ハハハ、麻依は諒くんに愛されてるなぁ」
「お父さん!」

「はい、そりゃあもう」
「ちょ、諒まで」

「あらぁ麻依、女としてこれほど嬉しいことはないわよ?」
「お母さん…」
私の味方はいないのか…

「ふふっ、そんなところまで本当に稔さんに似ているなんてね…」
「友美さん、諒のお父さんもこんな感じだったんですか?」
「お恥ずかしい話ですけど、えぇ…とても真っ直ぐな態度で示してくれてましたよ」

「あっ、諒くんて外見もお父様に似てるんですってね?ぜひ見てみたくって!」
お母さんが、パチン!と手を合わせて言う。

「はい、よかったら見てください。少しですが持ってきましたので」
「あら、それは私もぜひ!」
「母さんまで…」
「だってこれほど興味深いものはないじゃない」

2人とも目を輝かせて写真が出されるのを待っている。


そして差し出された薄いアルバムには、稔さんと友美さんと小さい頃の諒の、幸せに溢れた家族の写真が並んでいた。

「ほんとに諒くんはお父さんにそっくりなのね!」

「あらまぁ…本当にお父様と瓜二つだわぁ!でもやっぱり目元はお母様似ね。諒は優しい目をしているもの」

「本当だな、男の子でここまで似てるのは珍しいくらいだな。うちも麻依は智世にそっくりだけどさ」

「わぁ!ほんとに諒って言ってもいいくらいだね!かっこいいね、すごくモテたんだろうなぁ…」

「…まーいー?」

「1歳とか2歳くらいでも面影あるね、やーんホントにかわいい!ほっぺぷにぷにしたーい」

「…まーいー…」

みんなでアルバムを囲んで見ていたのに、諒に後ろにずるずると引っ張られてしまった。

「およ、およよ?」
「ちょっと来てくれる?」

引っ張られるまま、およよおよよと病室の外…廊下…と連れ出され、最終地点は談話スペース。


「どうしたの?」

…あっ、ムゥの口…

写真を見てキャッキャ言ってたのがおもしろくなかったのかな…

「ごめんね、諒の小さい頃の写真見るのが嬉しくて」

本当だよ?お父さんを見てるだけじゃないからね?

「…ん、わかってんだけど…なんか…妬けるし、今日まだ麻依にあんま触ってないし、なんか欲求不満つーか」

普通にしてると王子様然としてるのに、ムゥの口で頭をカシカシ掻きながらそっぽ向いちゃう諒が、もう可愛すぎて萌える。


「耳貸して?」

って言ったら素直に諒が屈んでくれた。

「そんな諒が愛しすぎてたまんない」

目の前に出された耳に手を当てて小声で囁くと、形のよい耳に、ちゅ…っと軽くキスした。

諒がよく私に言ってくれるセリフ。
今、すごく言いたくなったの。
これ言うの、とっても幸せな気持ちなんだね。ふふっ

そう思いながら諒を見ると…あ、珍しく真っ赤になってる!

…あれ、両手で顔を隠しちゃった。

どうしたのかな…
機嫌…直ってない?
キスはやりすぎた?


すると、諒の顔から離れた右手が私の顔に触れた。

「あぁもぉ…ほんとにさぁ…」

ん?

「何でここでそんなこと言うかなぁ…すぐに抱きしめたくなるし、濃ーい深ーいキスもしたくなるじゃん……もぉ…空いてる部屋に連れ込んで抱いていい?」

「だっダメダメ、できないって」
私が真っ赤になっちゃったよ。

「はー…だって、この胸の高鳴りどうしてくれんの…」
諒が私の手を取り、自分の胸に押し付けた。…ほんとだ、すごくドキドキしてる。

「じゃあ機嫌は直ってるの?」
「直るどころか、逆に振りきっちゃってる」

うーん…それは困った。
「じゃあ…とりあえずそれは一旦置いといて、自販機でみんなの分の飲み物買って戻ろうか」

…あっ、またムゥって…

「…わかった。じゃあ続きは夜にってことで、とりあえず今はこれだけ」

そう言うと、部屋の角に追いやられて、抱きしめられた後に…顎クイからの甘ーいキス。

諒が私を覆う体勢とはいえ…
だっ誰もいないよね!?
誰にも見られてないよね!?
てゆーか、最初からこうされてればよかったのかな…

「じゃ約束だよ?続きは夜ね。さーて、何飲むかな~」

…なんか…いつも諒のいいように丸め込まれてない?

なんて、それすら嬉しいって思っちゃう私も大概だけどね、ふふ。
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